霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: A10
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口頭発表
ニホンザルの闘争遊び:インタラクションの非対称性は文脈に基づいて調整される
*壹岐 朔巳長谷川 寿一
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抄録

闘争遊び(play fight)は広く哺乳類が行う競争的かつ親和的なコミュニケーションである。闘争遊びで使用される「噛みつき」などの攻撃動作は喧嘩(serious fight)においても使用される。そのため,遊びの動作が誤って解釈されてコミュニケーションが破綻する可能性が常についてまわる。実際,一方的な攻撃によるインタラクションの過度な非対称性は遊びを維持する上で障害となる(Pellis & Pellis, 1991)。遊んでいる個体はコミュニケーションを破綻させないために競争的に振る舞いつつも自分と相手の行動を協調させていると考えられているが,その詳細なメカニズムはよくわかっていない。本研究では,(A)遊びの始まり方(双方向に開始されたか・一方的にしかけられたか),(B)直前のインタラクションの状態(対称・非対称・非接触),(C)遊びの開始からの経過時間といったコミュニケーションの文脈がインタラクションの非対称性に与える影響を検討した。分析対象は地獄谷野猿公苑(長野県)における行動観察により取得した0~2歳の野生ニホンザルの2個体間での遊び220バウトである。分析では,双方向に攻撃が行われる対称状態から一方の個体が優勢な非対称状態への遷移確率,および非対称状態の持続時間に対する(A)~(C)の文脈の効果を一般化線形混合モデルにより検証した。分析の結果,①双方向に遊びが開始された場合は一方的に遊びがしかけられた場合と比べて各個体が優勢になる確率の配分が有意に均等に近いこと,②一方的に遊びをしかけた個体が優勢になる非対称状態はバウト開始直後は短いが次第に長くなること,③対称状態の直後の非対称状態は他の状態の後と比べ有意に長いことが示された。これらの結果から,(1)個体間の双方向的なインタラクションへの関与,(2)対称状態による緩和,(3)時間経過に伴う遊びの文脈の共有といった要因がインタラクションの非対称性を安定的に制御する相互的メカニズムとして機能していることが示唆された。

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© 2018 日本霊長類学会
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