霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: A11
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口頭発表
オランウータンにおける異性間食物移動から性的強制傾向が予測できる
*田島 知之マリム ティトル
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抄録

【目的】非血縁成体間で行われる食物移動はヒト社会では日常的な行動だが,ヒト以外の霊長類ではまれである。非血縁の異性間で行われる食物移動には繁殖機会を導く機能があるのではないかと議論されてきた。本研究は,半野生オランウータンについて異性間食物移動と繁殖との関連性を調べた。【方法】マレーシア・サバ州のセピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター及び隣接するカビリ・セピロク森林保護区において,元リハビリ個体を含んだ自由生活下にあるボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus)を対象とした。1頭のフランジ雄と3頭のアンフランジ雄を個体追跡し,周辺個体を含め,交尾,性器検分,他個体から食物を取ろうとする行動とそれに対する食物保持者の反応を記録した。【結果】90例の異性間食物移動交渉が観察され,51例で実際に食物移動が起こった。しかし,食物移動の直後に性行動が増えるといった直接の寄与はなかった。雌が食物保持者だった時よりも雄が保持していた時の方が攻撃的な反応を示す割合が有意に低かった。特にフランジ雄よりもアンフランジ雄の方が寛容な傾向にあった。また,同一ダイアッドの中では,雄が強制的に雌から食物を取った割合と,雄が強制的に同じ雌へ性器検分を行った割合の間に有意な正の相関関係が認められた。【考察】先行研究が提唱したように,雌が食物移動交渉を通じて雄の性的強制に関する情報を得ることは可能と考えられる。異性間食物移動が直接的に交尾機会を導く機能を持つことはないものの,食物移動交渉を通じて将来の交尾相手の選択に影響を及ぼす可能性がある点で,繁殖との関連性があると考えられる。

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