抄録
本研究の目的は,同所的な3種のオナガザル類が(1)どの分類群の昆虫をよく補食するのか,(2)昆虫をどの程度食い分けているのか,を明らかにすることである。オナガザル類Cercopithecus spp.はしばしば異種どうしで混群を形成する。そのメカニズムのひとつとして,ニッチ分化や食い分けが考えられる。昆虫は総じて栄養価が高く,多様性も高いため食い分けが生じやすいと予想される。しかし,直接観察から被食昆虫を種同定するのは難しく,同所的な霊長類が本当に昆虫種を食い分けているかは明らかになっていない。本研究ではオナガザル類の糞からDNAを抽出して塩基配列に基づいて被食昆虫を推定し(DNAメタバーコーディング),3種間で比較した。観察・糞採集は2016年7月~9月,2017年7月~9月にウガンダ共和国カリンズ森林保護区でおこなった。ブルーモンキーC. mitis stuhlmanni,レッドテイルモンキーC. ascanius schmidti,ロエストモンキーC. lhoestiの各1群を対象とした。各群れの遊動域は大きく重なっている。排泄後3分以内に採集した糞217個からDNAを抽出し,被食昆虫を分析した。結果,3種とも,多種類の鱗翅目昆虫(チョウ・ガ類)を高頻度で捕食していた。3種とも成葉上の昆虫を捕まえる頻度が高かったことから,鱗翅目の幼虫を選択的に捕食していたと考えられる。さらに,捕食した昆虫は3種間で大きく重複していた。つまり,少なくとも7~9月の期間では,3種は昆虫種を食い分けていないことが明らかになった。ただし,昆虫を捕獲した樹高は種間で有意に異なっていたため,同じ昆虫を補食しながらも直接的な競争は緩和されていた可能性がある。また,同じ昆虫種の異なる成長段階を捕食した可能性もあるが,DNAでは成長段階を区別できないため検証には至らなかった。