主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
大型類人猿は野生では樹上に枝などを編み込んだベッドを作って寝るが,そのスキルの発達についてはあまりわかっていない。また飼育下のチンパンジーにおいては,野生由来のチンパンジーは複雑なベッドを作るものの,飼育下生まれの個体に受け継がれていないことが多い。そこで今回飼育チンパンジーにベッド作りを促すことと,その発達プロセスをあきらかにするための検討をおこなった。京都市動物園のチンパンジー5個体(オス2,メス2,コドモ1)を対象とした。2015年2月から2017年6月の間にチンパンジーが夜間使用する屋内展示場の中に,3種類の寝台を設置した。それぞれの寝台は枝をさしやすい構造にしてあり,研究期間中,週に2-3回ほど定期的に2mほどの枝を複数導入した。16時頃から翌朝7時まで,寝台上の夜間行動を監視カメラ越しに記録した。記録した動画をもとに,個体ごとの寝台の利用頻度と,寝台上で観察されたベッド作りに関連する行動を分析した。特に,2歳から野生でベッドを作れるようになるとされる5歳の間のコドモの行動発達を調べるために3年間にわたり動作レパートリーの分析を継続しておこなった。結果,寝台はチンパンジーのベッド作り行動を促すことができた。ただし,チンパンジーのうち,枝を編み込むベッドを作ったのは野生由来の個体とそのコドモのみであった。母親の作製したベッドは,野生チンパンジーのベッドと比較して深さは浅い傾向にはあったが,サイズは類似したものだった。コドモは2歳では単純な動作しかおこなわなかったが,3歳では野生由来の母親の動作レパートリーすべてと母親が持たない他の群れメンバーの動作が確認され,4歳になると頻繁に『編み込む』といった複雑な動作を表出した。このように,幼少期に適切な環境を設定することで飼育下でもチンパンジーの複雑なベッド作り行動を促すことが可能であった。また,母親とそれ以外の群れの個体から動作を柔軟に社会学習することが示唆された。