霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: P01
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ポスター発表
姉がいると母親は手抜き気味に:野生チンパンジーの移動開始において母親および姉はアカンボウを「待つ」
*桜木 敬子
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抄録

チンパンジーの母親が移動の際に子供を「待つ」のは,典型的な世話行動のひとつといえる。その割に着目されることは少なく,「通常であれば母親が子に提供する行動」としてのアロマザリング(Hobaiter et al., 2014)あるいは養子取り(Boesch et al., 2010)の説明に用いられる程度である。チンパンジーはアロマザリングを多く行う種ではないが,その中ではきょうだい(とくに姉)が面倒を見ることが多いとされる(Goodall, 1968 etc.)。本研究では,母親および母子と日常的に移動をともにする年上のきょうだい(対象となった集団の構成の都合上,姉のみ)が,移動の開始の際にアカンボウを待つ行動に着目し,姉の存在ないし行動が母親の行動に及ぼす影響,そして姉による世話行動の意義を検討した。対象は,タンザニア・マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジー60頭余りの集団における12母子ペアであった。アカンボウが移動時に自力で歩ける2歳以上の母子ペアにおいて,以下のことが分かった。1.母・姉ともに,移動開始時の母子間距離が大きいときほどアカンボウを待つこと。2.姉がいない母子ペアと比べ,姉がいる母子ペアのほうが,母親がアカンボウを待つ頻度および運ぶ頻度が低いこと。さらに,母親がアカンボウを待つ行動に影響を与える要因を調べたところ,母子間距離が大きいとき,アカンボウが鳴いたとき,そして姉がいないペアにおいて,より多く待つことが示唆された。母・姉ともに,互いのおよびアカンボウの位置や状況を把握し,アカンボウがより待ってもらうことを必要としているときに待つと考えられる。また,姉がいることが母親による世話行動を減らし,母親の負担を小さくしている可能性がある。さらに,従来チンパンジーの母親は,非母親によるアカンボウの世話を「許容することがある」とされてきたが,母親自ら年長の子供(アカンボウの姉)を頼り,任せている可能性がある。

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© 2018 日本霊長類学会
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