主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
本報告では都市環境に近接した地域に,野生状態で生息するマカク属サルと人間の関係について,予備的な観察の結果を報告するとともに,野生動物に対する人間の認識や態度,とくに餌付け行動にともなう人間とサルの関係について考察することを目的とする。香港は観光都市として人気があるが,陸地面積の約40%をカントリーパーク(郊野公園)が占め,自然豊かな環境が存在する。現在,香港にはマカク属として主にアカゲザル(Macaca mulatta)とカニクイザル(M. fascicularis)の2種が生息し,新界地域の金山,獅子山および城門郊野公園に分布する。新界は九龍半島に位置し,多くの新興高層住宅が立ち並ぶ地域である。この地域のマカク属のサルは人間の住む環境に非常に近く,都市に隣接して野生状態で生息するという特殊性をもっている。3つの郊野公園でマカク属サルの群を追跡し活動状況を記録するとともに,公園を訪れる人々の観察,近隣住民とサルとの関わりの調査を行った。また公園管理を行う香港漁農自然護理署(AFCD)職員の活動,および後述する避妊プロジェクトを担当する委託スタッフの活動を視察し聞き取りを行った。金山と獅子山郊野公園には,100頭を超えるサブグループを含む大きな群れが分布しており,最近の個体数の急激な上昇と人慣れによる人間への被害が問題になっていた。2つの公園の中央を通る幹線道路は多くの車が往来し駐車場の利用も頻繁にあり,その近辺に常時多数のサルが滞在していた。観光客や地元の人々が,さまざまな目的で公園を訪れるが,禁止されているにも関わらず,公園内で人間からマカク属のサルに餌を与える行動が頻繁に観察された。個体数増加への対応策として,AFCDでは餌やり禁止の法整備に加えて,避妊手術プロジェクトを実施していた。人間と野生動物の関係という側面から,この地域のマカク属サルの置かれた状況の特殊性を明らかにすることを試みる。