主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
【はじめに】現生大型類人猿の内でも特にゴリラとチンパンジーは律動的且つ明瞭なナックルウォーキングを示す。ヒトニザル科の共通祖先が腕渡り+二足歩行性を獲得していたとの仮説に立てば,これら大型類人猿は後に手指の甲を接地させ二次的な四足歩行性を得たことになるが,その成立像は不明である。今回,テナガザルの中で最大種であるフクロテナガザルの地上二足歩行を観察する過程で興味ある知見を得たので報告する。【材料と方法】鹿児島の平川動物園並びに米国ニューオリンズのオーデュボン動物園で飼育展示されるフクロテナガザルの地上ロコモーションをHD撮影した。体幹の傾き,前肢の運動性に留意しつつ解析を加えた。【観察】両園共に周囲を水域で囲まれた小島の中に放飼されるが,頻繁に地上に降りて島の周辺に沿い歩いて回る。フクロテナガザルは体重が半分程度のシロテテナガザル同様,地上を移動する際には二足歩行を原則行う。足場が悪い箇所では体幹を幾らか左右に傾けつつ手指の甲を軽く接地させ,また平らな岩の上を両手の平を着け両腕の間をブランコの様にして両下肢を同時に前に繰り出す動作も見られた。この時体幹は軽度に前傾させる。大型類人猿様の,四肢を交差させながら進む四足歩行のリズムは全く観察されず,ヒトが歩行中に手すりなどに指の甲を着く動作,或いは学童が教室内の通路を左右の机上に手を着きながら両下肢を揃えて進む遊びにも類似する。【考察】フクロテナガザルは大型類人猿のナックルウォーキングに向かう中間的段階にあるとは言い難く,我々ヒトの側に極く近い地上移動性を有する動物と考えられる。しかしながら,地表に殆ど手を着くことなく体幹を直立させ軽快に二足歩行するシロテテナガザルなどの小型テナガザルと比較すれば,ボディサイズの大型化が下肢制御の不安定化を招き,手を副次的に利用する,との極く初期のナックルウォーキング成立像を示している可能性はある。