霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: A16
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口頭発表
ニホンザルにおいて観察された社会的慣習の世代を超えた頻度の変遷
*中川 尚史疋田 研一郎
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抄録

ヒト以外の霊長類においても,新しく発明された行動が世代から世代へ社会的に伝播していくことが知られ,文化的現象と呼ばれている。社会的に伝達した行動のいくつかは維持され,あるいは変容する一方で,消え去るものもある。旧世界ザルで初めての社会的慣習として知られているニホンザル(Macaca fuscata)の抱擁行動は,宮城県金華山島A群において1983年,1996年と2度の大量死を経ても現在まで数世代にわたり維持されてきた。しかし,本行動は緊張を解消しスムーズな毛づくろいへの移行を促す機能があると考えられていることから,社会的緊張の変化とともにその頻度が変遷しているとの仮説も成立する。本仮説の検証を目的に,A群の群れ追跡時の全生起サンプリング,並びにA群のオトナメスを対象にした個体追跡サンプリング用いて,抱擁行動の頻度変化を調べた。群れ追跡データによれば,1度目の大量死直後の10年,2度目の大量死後のうち最近10年いずれの時期も,頻度が漸減傾向にあり,オトナメス1頭当たりの血縁メスの累積数の平均値の増加と並行して起こっていることが分かった。個体追跡データによれば,1度目の大量死後数年は直近の2017年に比べ頻度が有意に高い一方で,非血縁オトナメスとの毛づくろい割合が有意に高かった。以上の結果から,大量死がもたらした血縁オトナメスの死亡により非血縁オトナメスとの毛づくろいが増えたことに伴う社会的緊張の増加により抱擁行動が増え,その後個体数の回復に伴って血縁者同士の毛づくろいが増えることにより抱擁が減少したことと考えられた。10年以上維持されることがなかったシロガオオマキザルの有名な社会的慣習と対比して考えると,ニホンザルの抱擁が数世代にわたり維持されたのは主たる行為者が群れに生涯留まるメスであったことに加え,明確な機能があったためであろう。しかしそれがゆえに,必要性が下がった時期には頻度の低下がみられることとなった。

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© 2019 日本霊長類学会
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