霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: B04
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口頭発表
ハズバンダリートレーニングによるオランウータンの口腔内診査法の開発
*中村 千晶李 泳斉森村 成樹
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抄録

近年では飼育動物においても高齢化が進んでおり,ヒトと同様に健康長寿が望まれる。食餌機能を脅かす口腔内疾患の早期発見は飼育動物の健康管理において重要であるが,日常の飼育作業時の観察では気付きにくく,病状が進行してから対処に至ることが多い。ヒトでは,歯科医師による健診システムによって口腔内疾患に対して早期発見・早期治療することが可能になっている。特に,学校歯科健診では,短時間で多人数を診査するために,規格化された項目についての簡便な記録法が確立されている。本研究では,オランウータンを対象とした口腔内診査法の開発を目的として,学校歯科健診の手法を飼育者向けに改良,実際の飼育個体へ適用した。円山動物園において日常的に飼育者によるハズバンダリートレーニングを受けているボルネオオランウータン(レンボー;1998.10.7生,雌)を被験個体とした。概要として,まず飼育者が被験個体と格子越しに対面,目視にて口腔内を約1分間観察し,見えたものを自由筆記で図と文字で記録した。その記録に基づき,歯科医師が視診の要点(術者と被験個体の顔の角度,舌圧子による粘膜の排除方法等)について改善案を提示し,最適な観察条件を得るまで繰り返し検討した。最終的には飼育者が口腔内所見を「オランウータン口腔内記録用カルテ」に飼育者が記録するように変更した。カルテ用紙はヒトの歯科健診用記録を参考にして歯科医師が準備した。以上の検討の結果,飼育担当者が歯・歯肉・舌粘膜の状態などの主要な口腔内所見について短時間で観察・記録する技術を習得することができた。複雑な知性を持ち,好奇心が旺盛なオランウータンにとっては,口腔内診査を受けるトレーニング自体が良い社会的刺激となっているようであり,福祉の向上にもつながると期待される。本発表では,口腔内診査の様子を動画で紹介する。

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© 2019 日本霊長類学会
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