主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 35
開催地: 熊本
開催日: 2019/07/12 - 2019/07/14
骨格筋の支配神経の詳細な解析は,骨格筋の分類における1つの手法であり,骨格筋の系統発生を調査する指標となりうる。腓腹筋,ヒラメ筋,足底筋の形態は霊長類の各種で異なり(Hanna et al., 2011), その支配神経において,とくにヒラメ筋の支配神経に種間の相違が観察されている。すなわち,ヒトではヒラメ筋に前方から入る枝が全例観察されるが,チンパンジーでは約半数例でしか観察されず,マカク類ではその様な枝は観察されない。しかし関谷(2017)は驚くべきことに,系統分類上ヒトと最も遠い関係にある霊長類のキツネザルのヒラメ筋に,前方から入る枝が存在したと報告している。ヒトとキツネザルに共通する形態から,霊長類の下腿屈筋群における系統発生学的考察が可能ではないかと考え,ヒトとキツネザルの下腿屈筋群全体を包括的に,支配神経の観点から比較した。神戸大学医学部解剖学実習用遺体3体3側,ワオキツネザル1体2側の下腿屈筋群と脛骨神経を一括で摘出して神経束解析を加え,支配神経の分岐パターンを比較した。ヒトの足底筋枝は,内側面へ入る1本のみであった。ヒラメ筋枝は2本存在し,前面に入る枝(HS1),後面に入る枝(HS2)があった。足底筋枝とHS1は共同幹を形成した。ワオキツネザル足底筋には近位後面に入る枝(P1),それよりも遠位から前面に入る枝(P2)の2本があった。ヒラメ筋には前面中央部に入る枝(LS1),後面近位内側に入る枝(LS2),前面近位内側に入る枝(LS3)の3本があった。このうちLS2とLS3は共同幹を形成し,腓腹筋枝から分岐した。LS1はP2と共同幹を形成し,腓側趾屈筋枝から分岐した。神経束分岐パターンから,キツネザルヒラメ筋枝LS1はヒトのHS1,LS2・LS3はヒトのHS2に相当し,キツネザル足底筋枝のうち,P2がヒトの足底筋枝に相当すると考えられる。支配神経から見て霊長類のヒラメ筋と足底筋にはそれぞれ2つの部分があり、系統発生の過程で消失するか遺残して形成される可能性が示唆された。