霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: B21
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口頭発表
屋久島のニホンザルの腸内細菌の発酵能力:上部域と海岸部の比較
*半谷 吾郎Tackmann Janko澤田 晶子Pokharel Sanjeeta SharmaValdevino Gisele de Castro Maciel大塚 亮真黒木 康太峠 明杜馬渕 諒真Liu Jie畠山 剛臣山崎 美紗子山崎 絵理伊津野 彩子Christian von Mering清水-稲継 理恵早川 卓志清水 健太郎牛田 一成
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抄録

近年,野生動物の腸内細菌研究が爆発的に増加し,次世代シーケンス技術を用いて,細菌の種構成が多くの動物種で報告されている。一方,それら腸内細菌種構成変化による生体機能への影響に関しての研究はまだ乏しい。霊長類は,1個体当たり500-1000種程度の腸内細菌を保有しており,その膨大なゲノムが,宿主の生存にどう関係しているかは,たいへんに興味深い問題である。本研究では,異なる食性を持つ屋久島の高地と低地で,ニホンザルの糞試料の中の細菌の発酵能力を,実験的に調べた。2016年5月に,屋久島で26個の新鮮な糞を採取した。糞の懸濁液と,ヒサカキの葉の乾燥粉末をまぜ,二酸化炭素を充填した瓶を密封し,37度で24時間,攪拌しながら発酵させた。高地の糞は,低地に比べ,発酵によって発生するガスの量が多く,発酵の産物である短鎖脂肪酸のうち,酪酸の産生量が,有意に多かった。糞のメタゲノム解析の結果,高地と低地では細菌の種構成が有意に異なっており,細菌のアルファ多様性は低地のほうが高かった。多糖(セルロース,デンプン,キシラン,ペクチン)の分解に関わる遺伝子,およびピルビン酸から短鎖脂肪酸(酢酸,酪酸,プロピオン酸)への合成に関わる遺伝子,合計38遺伝子のコピー数を比較したところ,高地で有意に多い遺伝子がひとつだけあった。代謝経路(KEGGのpathway)レベルで比較すると,低地でglycogen biosynthesis IおよびD-galacturonate degradation Iが多くなっていた。これらの結果は,葉を多く食べる屋久島高地と,果実をより多く食べる屋久島低地の食性の違いが,腸内細菌の種構成と機能の違いと相関していることを示している。葉を多く食べる地域では,腸内細菌も葉の消化(発酵)能力が高いものが多くなり,宿主であるニホンザル自身による,唾液や胃液中の消化酵素,および咀嚼による消化をたすけるはたらきを,腸内細菌が担っていることが示唆される。

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© 2019 日本霊長類学会
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