主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 35
開催地: 熊本
開催日: 2019/07/12 - 2019/07/14
動物園では,動物福祉の観点から採食物を含む生活環境を改善する「環境エンリッチメント」が推奨されている。野生下の採食品目には,難消化性成分や植物二次代謝産物が含まれることが多いが,それらの成分が抗菌性を有することなどから,野生下における個体の健康維持に貢献していることも考えられる。レッサースローロリス(Nycticebus pygmaeus)は、これまで果実や野菜に昆虫,ペレットを飼料として飼育されてきたが,糖質の多給を原因とする口腔疾患の多発が報告されてきた。そこで本種の飼育個体の歯垢から分離された細菌株の増殖が,野生下の主要な採食物である植物ガムや飼育下のエサに含まれる炭水化物によって促進もしくは阻害されるかを検討した。日本モンキーセンターで飼育されている4個体の歯科検診時に歯垢を採取し,直ちにカナマイシン含有BHI寒天培地に塗沫後,36℃・嫌気条件下で72時間培養を行った。約40の分離株の16S rRNA遺伝子を用いた系統解析により,歯周病に関連すると考えられる8細菌種(Peptostreptococcus stomatis,Prevotella intermedia,Anaerocolumna cellulosilytica,Bacteroides thetaiotaomicron,Bacteroides fragilis,Bacteroides heparinolyticus,Bacteroides ovatus,Bacteroides uniformis)が含まれることがわかった。歯科検診時に治療介入としてニューキノロン系抗生物質(ビクタス注射液5%® / オルビフロキサシン)を皮下注射していることから,これら8菌種20分離株のニューキノロン系抗生物質耐性を調べたところ,全ての分離株が感性であることが明らかとなった。加えて分離株のグルコース・フルクトース(飼育型食餌),アラビアガム(野生型食餌)およびグルコース・フルクトース+アラビアガム(飼育型+野生型食餌)による増殖を評価した。本発表では飼育個体の口腔保健を,歯周病の原因菌と考えられるこれらの菌株の薬剤耐性に加え,炭水化物資化性の観点から議論する。