霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: C10
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口頭発表
ヨウ素造影CTによる霊長類の声帯の比較形態学的研究
西村 剛Dunn Jacob C.Sears Jacobus P. P.新宅 勇太
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抄録

霊長類の音声は、多様性に富んでいる。ヒトの話しことばを構成する音素は声道での共鳴によってかたちづくられるが、サル類の音声の音響学的特徴の多くは声帯振動でつくられる音源の特性によっている。サル類の声帯形態は、肉眼解剖や染色切片等による解析が行われてきたが、それらの技術的制約により体系的理解が不足している。本研究は、摘出喉頭の固定標本を、ヨウ素溶液(I2KI) に浸潤させたのち、マイクロCTで撮像することで、軟組織を造影して高解像度の画像データを非侵襲的に収集することに成功した。ヒト上科7属30標本、旧世界ザル8属34標本、新世界ザル10属22標本を用いて、声帯/ 声帯膜、声帯筋の形態変異を解析した。新世界ザルでは声帯から上へ高く伸びる声帯膜が認められたが、旧世界ザルでは中程度から低い。一方、ヒト上科では、属間のみならず種内でも変異に富んでいる。ヒトでは声帯膜は認められない。新世界ザルやテナガザルでは声帯筋が貧弱であるのに対して、旧世界ザルや大型類人猿、ヒトでは声帯筋が比較的発達する。声帯膜は、声帯振動を起こりやすくし、大きな音声を作るのに寄与するというモデルがある。しかし、サル類でみられる声帯膜形態の多様性は、その機能も一様でない可能性を示唆している。また、ヒト上科での声帯膜形態の大きな変異は、むしろその機能的重要性の低下を示している。ヒトの声帯膜欠損は、そのような進化的背景で進化したのかもしれない。

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© 2020 日本霊長類学会
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