霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: P27
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ポスター発表
群間エンカウンターの勝敗が野生ニホンザルの移動パターンにあたえる影響
栗原 洋介兼子 明久夏目 尊好愛洲 星太郎Broche Nelson本田 剛章伊藤 毅澤田 晶子半谷 吾郎
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抄録

群れで暮らす動物は、群間攻撃交渉を通して、食物資源や配偶相手を獲得できる利益を得る一方で、ケガのリスクやエネルギー消費量の増加などのコストを負う。 とくに近年、群間攻撃交渉に負けた群れは移動コストの増大を強いられることがわかってきた。屋久島海岸域にすむニホンザルでは、群間エンカウンターに負けやすい小さい群れが繁殖に不利であり、群間攻撃交渉のコストが適応度にまで影響すると考えられている。しかし、群間エンカウンター直後の移動パターンの変化はこれまで検討されていない。そこで、本研究では群間エンカウンターの勝敗がニホンザルの移動パターンにあたえる影響を解明することを目的とした。2017年・2018年に屋久島・西部林道に生息するニホンザル(3群のべ9個体)を捕獲し、GPS首輪を装着して、各年4ヶ月間位置情報を収集した。測位は10分間隔で、全個体同じタイミングに行った。異なる群れに属する個体が一定距離(100-225m)内に近接している間を群間エンカウンターと定義し、エンカウンター後 10分間の移動距離が30m以内である群れを勝者と定義した。この定義を用いて、GPSデータより群間エンカウンターを抽出し、勝敗を判定した。敗者は、勝者よりもエンカウンター後の移動距離が長く、より離れた場所まで移動していた。エンカウンター後の移動の直線性にエンカウンターの勝敗は影響していなかった。 本研究は、屋久島のニホンザルにおいて、移動コストの増大が群間エンカウンターに負ける短期的なコストとなっていることを示した。エンカウンター後も移動の直線性が変わらなかったことから、相手群から逃避するための直線的な移動を行うのは短時間で、相手群と同じエリアを利用するのを避けるために、より遠いエリアへと移動していたと考えられる。

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© 2020 日本霊長類学会
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