主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 37
開催地: オンライン開催
開催日: 2021/07/16 - 2021/07/18
p. 26-27
アカゲザルを含むマカクザルでは,音声行動の研究が精力的に行われており,多様な音声レパートリーが知られている。その多くは,ピッチや長さの変化など,音源の操作によっている。しかし,その音源をつくる発声メカニズムに関する知見は技術的限界により限られていた。本研究では,生体のアカゲザルにおける発声運動の様態をハイスピードカメラで撮像することに成功した。脳幹の水道周囲灰白質(PAG)およびその周辺領域を電気刺激して発声を誘発し,発声中の声門領域を,経口でボアスコープを挿入して頭側からハイスピードカメラで撮像した。対象となった2 頭のオス個体で,合計28 回の発声運動を記録した。アカゲザルの声帯の上内側には,薄い膜状の声帯膜があって,声帯との間には浅い溝がある。本研究で記録したすべての発声において,その声帯膜が振動したいたことを確認した。刺激領域や電気刺激を変えることにより,声帯膜と声帯の振動について次の3 つのパターンを観測した: 1) 声帯膜のみ振動し,声帯が振動しない,2) 声帯膜と声帯が独立して同周期で振動する,3) 声帯と声帯膜が連続的に、おおよそ半周期ずれて振動する。また,声帯が振動する場合にはsubharmonics が起きることもあった。これらの結果は,アカゲザルの音源は声帯膜振動が主となってつくられており,声帯振動は付加的であることを示す。 また,近接する声帯膜と声帯という2つの振動体が,相互に作用して,多様な振動パターンにより音源をつくっている可能性を示唆した。声帯膜に関する体系的な研究はないが,その存在は一部のサル類では知られている。一方,ヒトでは,声帯膜がなく,話しことばでは,通常,声帯振動により安定した音源がつくられる。本研究の結果は,サル類にはヒトと異なる発声メカニズムがあり,ヒトの声帯形態と発声メカニズムはむしろ派生的であると示唆する。
本研究は,科研費(#19H01002,西村; #18H03503,香田)の支援を受けた。