主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 37
開催地: オンライン開催
開催日: 2021/07/16 - 2021/07/18
p. 28
ニシローランドゴリラにおける単雄複雌群の血縁構造は,父親である1頭の核オス,母親である複数のオトナメス,その遺伝的子供,の形を基本とする。しかし,いくつかの調査地では,核オスと未成熟個体が遺伝的父子ではない群れの存在が示唆されている。ガボン共和国ムカラバ-ドゥドゥ国立公園では,2016–2018年に,野生ニシローランドゴリラの単雄群が核オスの消失に伴い崩壊したことで社会変動が生じた。我々はこの社会変動の中で,崩壊した群れの残存個体による隣接群(N群)への移籍を捉え,変動後のN群の血縁構造を明らかにするためDNA解析を行った。変動前のN群は核オス1頭,オトナメス2頭,アカンボウ2頭の計5頭で構成されていたと遡及的に推測される。2018年3月,崩壊した隣接群(G群)から残存6個体がN群に移入した。さらに2018年9月,もう一つの隣接群(M群)から11個体がN群に移入したことが確認された。一方,同時期に2個体がN群から移出した。最終的に,オトナメス3頭,若いシルバーバック1頭,ブラックバック3頭,サブアダルト3頭,コドモ2頭,アカンボウ3頭がN群へ移入した。N群の個体数は,2018年3–8月の約6ヶ月間で5頭から20頭に急増した。変動後のN群を対象に,マイクロサテライト16遺伝子座に基づく親子判定を行った結果,N群の核オスの遺伝的子供は元々在籍していたアカンボウ2頭のみであった。 一方,移入してきた未成熟個体やブラックバック,若いシルバーバック計12頭の父親はG群またはM群の核オスと判定され,N群内に3頭の異父兄弟と2頭の完全孤児が確認された。また,血縁推定により3頭の核オスは互いに非血縁だと推定され,N群の核オスと移入個体の間に明確な血縁関係はないと考えられた。本研究は長期にわたる観察・遺伝的モニタリングによって,群れ崩壊に伴う残存個体の移籍の結果,核オスと未成熟個体が遺伝的父子関係にない群れが形成されることを示す明確な証拠を提供した。