霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
アカアシドゥクラングール妊娠個体に観察された後肢屈曲腕渡り動作
藤野 健
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p. 37-38

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抄録

【はじめに】飼育下のアカアシドゥクラングールPygathrix nemaeusの1個体にて後肢屈曲型の腕渡りを観察したので報告する。【材料と方法】横浜ズーラシアにて飼育される妊娠中の雌個体。運動性に問題は見られない。2019 年11月18日にフルHD,60 frames/sで撮影後,コマ割りして目視にて運動性状を解析した。過去撮影のシロテテナガザル,ゴリラ(子供個体),ケナガクモザル,キンシコウ(子供個体)の腕渡り動作像と比較した。【観察】座位から前肢を伸ばしてすぐ上の飼育ケージ天面を把握して腕渡りを開始し,後肢を完全に屈したまま体幹と一体化させて腕渡りを続け,他方,勢いを付けて天面にぶら下がり腕渡りする際には一度後肢を伸展後に完全に屈するか或いは中程度の屈曲を保つ。いずれも骨盤と胸郭の間の回転位相差は外見的には感知されない。【考察1】他個体は後肢を伸展し下垂させて進み同じく位相差は生じない。大型類人猿やヒトの腕渡り動作時もこれに等しく,新世界ザルのクモザルも尻尾を併用するが類似した動作を行う。これに対し,小型類人猿のシロテテナガザルでは,高速な腕渡り時には後肢を屈し,この時,前肢を前方に伸ばして胸郭の側方を左右交互に突き出すが,骨盤は逆回転して後肢の膝頭を大方前方に向けたままで進む。【考察2】腕渡りを行う霊長類は基本的に(掴まり立ち)二足歩行を行い,その際このラングールを含め胸郭と骨盤間の回転位相差が観察されるが,腕渡り時にはこれは観察されない。これから,位相差の発生は,立位のぶら下がりロコモーション即ち腕渡りとペアで開始された立位歩行の初期段階に於いて,掴まり立ち歩行動作に伴うものとして獲得され,また二足歩行の効率性に資するものとなったと考える。そしてこの運動習性が小型類人猿の高速腕渡りに取り入れられその効率性を高めたものと考えるが,本ラングールの後肢屈曲姿勢は膨らんだ腹部の保護或いはその状態での腕渡りの効率化に向けたものである可能性がある。

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