霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
ニシチンパンジー(Pan troglodytes verus)における浅指屈筋の筋束構成と支配神経パターン
江村 健児平崎 鋭矢荒川 高光
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p. 37

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抄録

霊長類において,浅指屈筋の筋束構成は種間で異なるが,その支配神経パターンには一定の共通性が見られる(Emura et al., 2020)。本研究では,類人猿系統発生における浅指屈筋の形態学的な変化を明らかとするため,昨年報告したニシローランドゴリラに続いて,ニシチンパンジーの浅指屈筋における筋束構成と支配神経パターンを調査した。ニシチンパンジー成体オス1頭の右浅指屈筋を用い,浅指屈筋の起始,停止,筋束構成,支配神経を肉眼的に観察した。 所見をスケッチとデジタル画像で記録した後,支配神経とともに一括して摘出し,実体顕微鏡下で支配神経の筋内分布を観察,記録した。標本は京都大学霊長類研究所共同利用・共同研究及び大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)を通じて提供を受けた。浅指屈筋は主に内側上顆から起始し,第2指から第5指へ停止腱を送った。第2指への筋腹が中間腱を持ち,他の筋腹よりも明らかに深層に位置すること,第3指への筋腹が内側上顆に加えて橈骨からも広く起始すること,第5指への筋腹が内側上顆に加え尺側手根屈筋の筋膜からも起始することがニシローランドゴリラの浅指屈筋と類似していた。第2指への遠位筋腹には正中神経の遠位からの枝が入るが,近位筋腹は正中神経近位からの枝と尺骨神経の枝に二重支配を受けた。これはヒトでの変異例(Ohtani, 1979; 山田,1986)と類似しており興味深い。第3指筋腹に正中神経近位からの枝が入り,その一部が第4指筋腹に達し,さらに伸びて第5指筋腹を支配するという所見は,他の霊長類の特徴(Emura et al., 2020)と同様であった。 ヒト浅指屈筋の第5指筋腹は第2指の中間腱から起始するとされ(Ohtani, 1979; 山田,1986),類人猿とは異なる。ヒトにおける第5指筋腹の起始の変化はチンパンジーと系統上分かれた後に起きたものであるという可能性を考えたい。

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© 2021 日本霊長類学会
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