霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
会議情報

ポスター発表
フタバガキ一次林に生息する野生ボルネオオランウータンにおけるオスの二型成熟と繁殖成功
田島 知之久世 濃子金森 朝子蔦谷 匠Mendonça Renata S.山崎 彩夏Malim Titol P.Bernard HenryKumar Vijay S.井上 英治村山 美穂
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 43

詳細
抄録

オランウータンは昼行性真猿類の中で珍しく単独性の強い生活を営む。性成熟したオスの中には優位形態であるフランジオスと, 劣位形態であるアンフランジオスの2つの形態が存在する。両形態のオスはともに生殖能力を持ち, 異なる繁殖戦術を取る。ボルネオオランウータンにおけるオスの繁殖成功についての先行研究は攪乱を受けた河辺林, リハビリテーション施設周辺の半野生個体群で行われてきた。本研究は初めて攪乱の少ない一次林に生息する野生ボルネオオランウータンを対象として父子判定を行った。マレーシア・サバ州・ダナムバレイ森林保護区の低地混交フタバガキ林の約2平方km を調査地として,2011年から2019年に,9組の母子を含む32個体について行動観察と糞の採取を行った。糞からDNAを抽出して, マイクロサテライト11領域について遺伝子型を決定した。CERVUS(Kalinowski et al., 2007)を用いて母親が既知の9個体中5個体の父親を決定できた。そのうち4個体については2個体のフランジオスが父親であり,残る1個体はアンフランジオスの子であった。フランジオスが多くの子どもを残した結果は, 河辺林や半野生個体群の先行研究と近いことから,植生がオスの繁殖成功の分布に与える影響は小さいと考えられる。また解析したオスの中に父親を持たない子どもが存在したことから, 調査地で優位なフランジオスが全ての繁殖成功を独占することは難しいと考えられる。半野生個体群を対象とした先行研究では,アンフランジオスが代替繁殖戦術として生存率の低い初産の子を残すとされたが, 本研究では初産の子の父親はフランジオスであった。フランジオスの割合が高い野生ボルネオオランウータンでは, フランジオスの中でも優位でない個体が代替繁殖戦術を採用する可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2021 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top