主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 37
開催地: オンライン開催
開催日: 2021/07/16 - 2021/07/18
p. 43-44
シエラレオネは西アフリカチンパンジー(Pan troglodytes verus)の生息国の一つである。同国ではチンパンジーは政治的及び呪術的な意味あいを持つことから,保全は困難であるという意見もあったが, 2019 年に同国の野生動物を代表する「国獣」となった。シエラレオネ国内と欧米及び日本における,チンパンジーと人の関係の変遷を,歴史的文献資料のシエラレオネのチンパンジーに関する記述,日本及び欧米諸国のチンパンジーの輸入・利用に関する資料,シエラレオネの野生動物保全活動及びチンパンジー・サンクチュアリー(保護施設)の違法ペット取引の記録をもとに振り返る。大航海時代と植民地時代に現在のシエラレオネ沿岸部を訪れた者の記録に,チンパンジーに関する記述が散見される。20世紀前半は,欧米での動物園や娯楽に始まり,後半にはアメリカと日本での医療実験を目的とした「生きた個体」の需要の高まりに応じて,シエラレオネでは数多くのチンパンジーが捕獲され,輸出された。同じ頃,チンパンジー研究者により保全の必要性も唱えられていた。その後,輸出が禁止され,絶滅危惧種となって久しい現在でも,過去の捕獲は同国内の違法取引に影響を与えている。違法取引や密猟により,孤児となったチンパンジーを保護するために,タクガマ・チンパンジー・サンクチュアリーが1995年に設立された。 1990年代は,欧米での大型類人猿の権利に関する議論や,生息国でリイントロダクションの科学的手法の試行が始められた時期でもある。サンクチュアリ活動は「愛護」であって,「保全」とは異なるという意見もあるが,同サンクチュアリはシエラレオネにおける野生チンパンジー保全の中心的役割を担っている。これまでの変遷を振り返り,今後のシエラレオネにおける野生チンパンジー保全と,チンパンジーを利用している国々の責任と役割について考察する。