霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
尿中生理指標の様々な保存条件での安定性
毛利 恵子戸田 和弥服部 裕子足立 幾磨橋本 千絵
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p. 47

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抄録

【目的】野生動物の尿中生理指標の分析はその個体の身体的生理的状態(性成熟,栄養状態,ストレスなど)を知る非侵襲的で有効な方法である。しかし,液体状態であるため,その成分の保存は温度,pH,細菌などの影響を受けやすい。影響の受け方は成分によって様々であり,さらに野生動物の尿試料を採取・保存する場合には保存状態を管理することが難しい。 生理指標を正確に測定するために野生動物の尿試料の保存法を確立することは非常に重要となる。本研究では,保存状態を変えて尿成分の安定性を調べた。 【方法】飼育下のチンパンジーの尿を使って以下の保存条件[①温度,②期間,③添加物の添加,④尿処理(酸性化,アルカリ化,滅菌)]を変えた尿の生理指標[①尿比重,②creatinine,③C-peptide などの尿中ホルモン代謝物]を測定した。【結果】4℃,室温(20℃~23℃),30℃の温度で保存した尿比重,creatinine 共に24時間まで変化しなかった。その後4℃保存の試料は7日たっても変化しなかったが,室温,30℃保存の尿比重は2日目以降上がりその後7日目まで上がったままだった。一方creatinine は,30℃で2日間保存すると3サンプル中2サンプルで急激に減少し,この減少したサンプルは室温で5日間保存すると同様に減少した。ところが,これらのサンプルを滅菌処理(0.2μmのメンブレンフィルターに通す)するとどの温度で保管しても7日間尿比重creatinine 共に変化しなかった。C-peptideは今回の尿試料の実験(n=2)ではどの温度条件でも24時間までは変化がなかった。【考察】野生動物の尿サンプル採取の際滅菌処理(フィルターに通す)をすることは不純物の除去や保存性を高めるうえで有効である。 今後ペプチドホルモンやステロイドホルモンの液体状態での保存の安定性についてもサンプル数を増やして調べる予定である。

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