霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
ストレスは飼育チンパンジーの健康状態に影響を与えるか?:毛中コルチゾル・心疾患リスクファクター・アロスタティックロードに関する探索的分析
山梨 裕美鵜殿 俊史平田 聡
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p. 48

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抄録

長期的なストレスは、動物の心身の健康に影響を与えると言われている。飼育下の大型類人猿は心疾患などで、比較的若い段階で死亡する例もあり、ストレスと関連があるのではないかと推察されている。しかしそれについて定量的な検討は行われていない。 そこで今回、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリのチンパンジーを対象として2012年から2018年の健康診断と2013年から2015年に測定した体毛中コルチゾル濃度のデータを用いて、ストレスとチンパンジーの心疾患(リスク要因も含む)や健康状態の関連を調べた。今回ストレス指標としては、体毛中コルチゾル(長期的ストレス)とアロスタティックロード(グルココルチコイド以外のバイオマーカーもあわせて評価した指標)を用いた。ひとつめの分析として、体毛中コルチゾル濃度(2013‐2015年の平均)と2013年から2018年の健康診断時に採取した心疾患のリスク要因及び心疾患マーカー(NT-proBNP及び体重に対する心臓サイズ)の関連を調べた(N=50)。しかし心疾患リスク及び心不全の発症との関連はみられなかった。次に、チンパンジーの死亡や肝炎ウィルスとストレスの関連を調べた。体毛中コルチゾル及び健康診断のデータがある個体のうち、 2020年までにチンパンジー10個体が死亡したが、体毛中コルチゾルまたはアロスタティックロードは生存個体より高いということはなかった。肝炎ウィルスのキャリア個体は、アロスタティックロードが高い傾向にはあったが、統計的に有意ではなかった。ただし、コレステロールなどいくつかのバイオマーカーが高齢期には高くなる傾向にはあった。以上の結果から、長期的なストレスが直接的に心疾患や死亡などの直接的に影響を与えている証拠は得られなかった。ただし、個体数も少ないので、ストレスの影響については今後も引き続き注意していく必要はあるだろう。

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