霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
シロテテナガザルの複数脳領域における網羅的遺伝子発現解析
五藤 花大石 高生郷康 広早川 卓志
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p. 50

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抄録

テナガザル科は,類人猿の1グループである。東南アジアの熱帯雨林で樹上生活をしており,長い上肢を使ったブラキエーションを行う。また,「歌」とよばれる発声行動も特徴的である。ペア型社会を営み,ペア間でデュエットを行う種も複数存在する。その特徴的な歌の遺伝基盤を探ることを最終的な目的として,本研究ではテナガザルの脳の遺伝子発現解析をおこなった。動物園で亡くなったシロテテナガザル(Hylobates lar)のオス(9歳)を対象とした。死亡後-80℃で保存されていた脳から,発声にかかわると考えられる領域を含む17領域をドライアイス上で凍結状態のまま採材し,RNA抽出に供した。さらにコントロールとして6つの臓器からも採材した。それぞれの組織からRNAを抽出し,ライブラリ作成後,イルミナシークエンサーをもちいてRNA-seqをおこなった。本個体からは先行研究でも脳の複数領域でRNA-seq がなされている(Xu et al. 2018 Genome Research)いる。そのデータとともに,遺伝子アノテーション付きのキタホオジロテナガザル(Nomascus leucogenys)のリファレンスゲノムにマッピングして,網羅的な遺伝子発現パターンを決定した。各遺伝子の発現量に基づく主成分分析の結果,以前に行われたRNA-seq結果と同じ脳領域のデータが近接したことから,再現性が確認できた。また,複数の臓器に比べ,脳の複数領域はお互いにクラスタリングし,脳特異的な遺伝子発現の傾向が見られた。今後,複数個体で同様の発現解析をおこなうとともに,領域間で発現パターンの差異がみられた遺伝子について詳しく解析する。また,聴覚にかかわる領域を追加して,総合的な解析をおこない,所期の目的である歌の遺伝基盤の解明に向けた考察をおこなう。

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© 2021 日本霊長類学会
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