霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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シンポジウム
野生霊長類の野外研究倫理:不鮮明な<境界>をめぐって
竹ノ下 祐二
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p. 11-

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抄録

日本霊長類学会は、2021年に「霊長類の野外研究に関する倫理指針」を策定した。本発表では、その起草者として、<境界>をキーワードに話題提供する。野生霊長類の野外研究は、さまざまな意味で境界が不鮮明であり、それが、包括的・統一的な規則の策定を困難にしている。野外研究における不鮮明な境界には、以下のようなものがある。

1. 研究と保全の境界:基礎研究と保全の実践活動では異なる指針が適用されるべきだが、近年「保全のための研究」のウエイトが増しており、どこまでが研究でどこからが保全活動なのかあいまいである。

2. 調査地・調査対象の境界:研究が調査地や調査対象に対して責任をもつ。しかし、どこまでが「調査地」なのだろうか。調査対照群の遊動域?調査している保護区の境界?個体群の分布域?

3. 野外研究者の境界:近年は実験研究と野外研究の境界があいまいである。サンプルのエンドユーザーはどこまで調査地に責務を負う?

4. 研究と生活の境界:アフリカの野生霊長類の野外研究者が滞在中に町でブッシュミート料理(合法)を食するのは許されるだろうか?その是非はさておき、こういうことは研究倫理に含まれるのだろうか?

境界が不鮮明であるとは、「何が『野外研究』か」が不確定であることを意味する。そのため、上記倫理指針は具体的に定められた規則は少なく、調査地や調査プロジェクトが個別の事情に応じて具体的な規則を定めるべしという「メタ指針」的なものとならざるを得なかった。どのように境界を鮮明化すべきかが、今後の改訂にむけた議論の論点の一つとなろう。

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© 2022 日本霊長類学会
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