霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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ポスター発表
LDLR (Cys82Tyr) およびMBTPS2 (Val241Ile)変異によるアカゲザルの家族性高コレステロール血症
日比野 久美子竹中 晃子鈴木 樹理田中 洋之釜中 慶朗中村 伸光永 総子川本 芳森本 真弓愛洲 星太郎夏目 孝義
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p. 66-

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抄録

血中コレステロール(CH)値が高くなると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる。これまでインド産アカゲザルの低リポタンパク質受容体(LDLR)にCys82Tyr変異を有する家系を維持し、7頭のヘテロ個体、1頭のホモ個体を産出した。この変異によるLDLRの活性はヘテロ個体では72%に、ホモ個体では42%に低下し、血中低密度リポたんぱく質-CH(LDL-C)はヘテロ個体で50mg/dL増加していた。CH投与実験を行い、LDL-Cが上昇した2個体の全遺伝子検索とその他の個体のジェノミック変異解析を行ったところ、2頭のオスのみでMBTPS2遺伝子(X染色体上)にG→Aのヘミ接合体が観察された。このMBTPS2はゴルジ体に運ばれてきたSREBPsを加水分解する酵素(S2P)の遺伝子で、低い細胞内CH濃度において作動する。切断されたN末端は核に運ばれ、LDLR遺伝子の転写を促進する。そこで、0.3%CH投与下でのmRNA発現レベルを測定した。変異の有無に関わらず、CH投与4週間まではmRNAレベルは上昇したが、変異を有する個体のmRNAレベルは、変異のない個体の8割に低下し、LDL-Cはさらに50mg/dL高くなった。ヒトでは、卵2.5個/日に相当するCH投与により、虚血性心疾患を引き起こす危険レベルにまで上昇することに匹敵する。CHの生合成の律速酵素であるHMGCRのmRNAに大きな変化はなかったことから、LDLRのCys82TyrとMBTPS2のVal241Ile変異のポリジェニック変異が血中CH上昇を引き起こすことが明らかになった。6週を越えるとmRNAレベルは突如日常のレベルまで低下した。0.3%CH投与6週目以降血中CHが虚血性心疾患の危険レベルを超えたのはこの2頭を含む3頭であったが、その原因遺伝子は明らかにできなかった。この3頭には細胞内CHを排出する機構に障害があり、6週目で細胞内CH上昇によるLDLRのmRNAの転写抑制が働き、mRNAレベルが急激に低下したものと考えている。(京大・霊長研共同利用研究2021-B-38)

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