主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 38
開催地: 京都府
開催日: 2022/09/16 - 2022/09/19
p. 75-
東アジア人類集団においてエタノール代謝に関連する複数の遺伝子の多型で正の自然選択のシグナルが報告されている。これらのアレルはエタノール代謝で生じるヒトにとって有毒なアセトアルデヒドの血中濃度を上昇させるので、その選択圧は謎である。病原体への抵抗性でこの正の選択を説明する仮説が提示されているが、いまだ実験的な証拠はない。私達の先行研究は、この仮説を検証する目的で8ラインの不死化リンパ球細胞にエタノール添加する実験を行った。トランスクリプトーム解析の結果、エタノール添加前に比べ発現量の低下を示した遺伝子数が64個なのに対して上昇した遺伝子数は59個とほぼ同数あり、発現量が低下した遺伝子の内17%に当たる11個が免疫応答に関わっていた。この結果は飲酒時に病原体への抵抗性が下がる可能性を示唆するが、しかし生体でのエタノール代謝は主に肝臓で行われており、肝細胞における発現変動のデータが求められる。生体からの肝細胞を用いる実験が望ましいがバイオプシーは極めて侵襲的である。iPS細胞は、比較的侵襲性の低い手法で入手可能な血球細胞や皮膚細胞などをリプログラミングすることで作成できるため有効である。そこで私達はヒトiPS細胞から分化誘導した肝細胞を用いる実験系構築に着手した。本発表では、この予備実験の結果を報告する。まず、2つの目標を立てた。1つは、不死化リンパ球細胞からのiPS細胞樹立。もう1つは、既存のiPS細胞からの肝細胞分化誘導の確立である。前者はSRV iPSC-4 ベクターを用いて17株の初期化誘導に成功した。今後そのうち7株の増幅維持培養と解析に取り組み、さらに肝細胞の分化誘導を試みる。後者の理研から分与された標準的なiPS細胞を用いた分化誘導実験については、市販のキットを用いてまずは1ラインで内胚葉の分化を行い、次に肝細胞の分化を試みた。今後これらの成否を免疫染色と定量PCRで確認する。