霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
ニホンザルの上高地集団における魚捕り行動の行動生態学的特徴
土橋 彩加竹中 將起林 浩介山田 玄城小倉 孝之伊藤 百音磯角 翔平長原 衣麻東城 幸治松本 卓也
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p. 30

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抄録

中部山岳国立公園内に位置する上高地は、標高が約1500mの亜高山帯に位置し、厳冬期の気温は-25℃にも達することから、ニホンザルの生息地の中でも最も寒冷な地域の1つと言える。2020年以降、上高地のニホンザルの糞分析(メタバーコーディング解析)やビデオ解析から、上高地のニホンザルが冬季に生きた魚を捕まえて食べる行動(魚捕り行動)が報告された。魚捕り行動は、上高地のニホンザルが越冬するために重要な行動と考えられているものの詳細な行動観察には至っていない。本研究では、魚捕り行動の行動生態学的特徴を明らかにすることを目的に、上高地に生息するニホンザル3群を対象に、個体識別法に基づく直接行動観察および魚捕り行動が過去に観察された地点のカメラトラップによる撮影を、2022年1~3月および2023年1~3月に行った。直接観察では35事例、カメラトラップでは16事例の魚捕り行動が得られた。魚捕り行動を示したのはオトナメスが31事例、オトナオスが6事例、ワカモノが4事例、コドモが5事例で(性・年齢クラスが識別困難な個体を除く)、最年少個体は推定4歳のオスであった。また、上高地に生息するニホンザル3群すべてにおいて、オトナメスの魚捕り行動が観察された。魚捕り行動の対象となった魚の大きさと、魚捕り行動を示した個体の性・年齢クラスとの明確な関連性は認められなかった。これらの結果を踏まえ、上高地ニホンザルの魚捕り行動の発達過程や行動生態学的特徴について考察・議論する。

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© 2023 日本霊長類学会
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