霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
野生アカオザルにおける異なる3種の捕食者との遭遇頻度と遭遇時の反応について
清家 多慧
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p. 31

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抄録

捕食者の存在の有無やその捕食者に対してどのような防衛策をとるかといったことは霊長類の社会の成り立ちや構成を考える上で重要な一つの要素である。しかしながら、捕食者となる動物は野生における観察が難しかったり、遭遇頻度が極端に低かったりする場合が多く、捕食について実際の観察に基づくデータは十分とは言えない。本研究では、タンザニアのマハレに生息するグエノンの1種であるアカオザル(Cercopithecus ascanius)の群れが実際にカンムリクマタカ(Stephanoaetus coronatus)・ヒョウ(Panthera pardus)・チンパンジー(Pan troglodytes)の3種の捕食者とそれぞれ遭遇した際の観察を元に、アカオザルが異なる捕食者にどう対処しているのかを考察する。3種の捕食者はそれぞれアカオザル捕食についてその方法や選好性が異なる。例えば、チンパンジーは前者2種とは異なって主に集団で狩猟を行う、カンムリクマタカは後者2種に比べて獲物種の中でアカオザルをより好んで狩るといった違いがあり、アカオザルはそれらに対応して異なる対捕食者戦略をとると考えられる。アカオザルの群れ追跡を行った2022年10月7日~2023年3月2日の間にカンムリクマタカとの遭遇は9回、ヒョウとの遭遇は2回、チンパンジーとの遭遇は26回観察され、遭遇頻度に違いが出た。前者2種の捕食者との遭遇時にはいずれも群れ個体によるモビングが見られた。その際に特にハレムオスがラウドコールをしきりに発し、最前線に出る、群れから一人離れて追いかけていくといった積極的に捕食者に向かっていく行動も見られた。一方、チンパンジーとの遭遇時にはチンパンジーに対する目立った反応が見られないことが多かった。本発表ではこれらの行動を定量的に評価し捕食者種ごとの反応の違いを明確にするとともに、どのような場面で単雄群におけるハレムオスが捕食者からの防衛において重要な役割を果たすかについても検討する。

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