霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
テナガザルの摘出喉頭試料を用いた声帯振動実験
西村 剛徳田 功吉谷 友紀新宅 勇太Herbst Christian T.
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p. 40

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抄録

テナガザル類は、大きな澄んだ音声で朗々と歌う「ソング」とよばれる音声行動で有名である。サル類は、ヒトと異なり声帯に加えて声帯膜を有し、後者の振動で発声する。テナガザル類も声帯膜を有しているが、それは声帯に対して側面に離れ、他のサル類のように近接してない。本研究では、日本モンキーセンターで死亡したテナガザル2体から摘出した喉頭の新鮮試料を用いて、それに気流を与えて声帯振動を起こす吹鳴実験を行い、その振動特性を、ハイスピードカメラや声門電図(EGG)等により解析した。テナガザルの発声は、声帯振動を主として、声帯膜の振動はほとんど影響を与えていないことを示した。また、テナガザルのソングでは、ヒトでいうところの地声の振動モードからファルセットのものにシフトするが、それは、ヒト同様に、もっぱら声帯形状の変化により、周波数構成を変化させることで達成されることを示した。テナガザル類は、他のサル類にみられる単音による音声コミュニケーションではなく、連続的に発せられる音声のつながり全体にコミュニケーション上に大きな意味がある。本研究の結果は、テナガザルでは、ヒトのように声帯膜を喪失することでなく、その解剖学的位置を変えることによって、安定的かつ可変的な発声を実現する進化を遂げたことを示唆する。本研究は、科研費(#19H01002、23H03424)の支援を受けた。

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