抄録
単雄群で暮らすニシゴリラでは、群れの未成体は群れで唯一の成熟オス(シルバーバック)と親密な関係を形成する。しかし、ニシゴリラの単雄群では、シルバーバックの死亡による群れの崩壊は避けられない事象である。群れの崩壊に伴い、未成体はシルバーバックとの親密な関係を失い、他のシルバーバックと新しい群れで同居する場合もある。未成体が新たな群れで形成する社会関係を詳細に調べることは、近年明らかになりつつある、ニシゴリラ社会の柔軟性について新たな視座を与える。ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園では、野生ニシゴリラの2つの単雄群が崩壊したことで、8頭の未成体(2歳から9歳)が隣接単雄群のN群に移籍した。また、N群には元々2頭の未成体(1歳と3歳)が在籍していた。本研究では、2018年から2019年にかけて、N群の先住未成体2頭と移籍未成体8頭の社会関係を調べて比較した。親密さの指標として未成体の5m近接および最近接個体を記録した。その結果、先住未成体は移籍未成体よりもシルバーバックとの近接時間が長いことが分かった。一方で、母親との近接時間は、先住未成体と移籍未成体の間で差はなかった。また、母親以外で最も近接する個体は、先住未成体ではシルバーバックであったが、移籍未成体の多くでは以前の群れで同居経験のある姉のオトナメスであった。これらの結果から、ニシゴリラの単雄群におけるシルバーバックと未成体の親密さには、血縁の有無または同居経験が影響していることが示された。また、移籍未成体がN群に定住する過程では、群れを率いるシルバーバックではなく、姉のオトナメスの存在が重要であった可能性が示唆された。一方で、移籍未成体とシルバーバックの近接が日常的に見られたことから、ニシゴリラのシルバーバックは他群の未成体に対しても寛容で、この性質はシルバーバックの将来の繁殖成功に繋がっている可能性が考えられる。