抄録
衣料用柔軟剤が木綿布を柔らかくするメカニズムについては,製糸工程における知見からの演繹的推論により 「繊維間の摩擦低減」 とする説が,一般的に知られている。具体的には,繊維表面上で柔軟剤がアルキル基を空気側に向けて単分子膜を形成する事により,近接した繊維間の摩擦を低減させるので,柔らかさを発現するという説である。これに対し,我々は,木綿布・糸を濡れた状態から静置乾燥すると,まるで糊付けしたかの様な硬さを発現する現象に着眼し,この硬さの原因を精査する事で,柔軟剤の効果発現メカニズムを探った。濡れた状態から自然乾燥した木綿糸の曲げ硬さ(KES-FB2法)の変化と,絶乾調整した後の木綿糸の柔らかさの変化等から,この硬さを支配する主要因を木綿繊維間に存在する結合水による架橋性の水素結合によるものと推察した。この結果を踏まえて,柔軟剤の効果を考えてみると,柔らかさの主たる発現メカニズムは,「木綿間の結合水を介した水素結合ネットワークの形成阻害」 と推察できる。