抄録
色はヒトやヒト以外の動物の行動や認知に影響を及ぼす。特に,赤色が持つ影響力についてはさまざまな研究が行われており,ニホンザルにおいて,繁殖期の顔の赤さが異性の興味を引くことが指摘されている。本研究では,野生ニホンザルの顔色に対する視覚的選好が条件によって変化するのかを実験的に検証した。顔の赤さを操作した同性と異性の刺激画像を利用して,発達段階(成体,ワカモノ,コドモ)ごとにその注視時間の長さを比較した。淡路島餌付けニホンザル集団を対象に,2024年12月から2025年2月にかけて1試行30秒間の画像提示実験を行った。顔の赤さのみが異なる2枚のサルの顔写真を2台のタブレットに同時に表示して,対象個体に提示した。実験中は対象個体をビデオカメラで撮影し,赤い顔写真および赤くない顔写真の注視時間を記録した。(1) 交尾期には同性よりも異性の顔写真を長時間見る,(2) 年齢が若いほど注視時間が長い,(3) 成体では異性の赤い顔への注視時間が長くなる一方で,ワカモノやコドモでは赤い顔と赤くない顔への注視時間の間に差がないと予測した。オスの顔写真を提示した場合,メスはオスよりも刺激を長時間注視した。一方,メスの顔写真を提示した場合,オスとメスの注視時間に差がなかった。オスの顔を提示した場合もメスの顔を提示した場合も,コドモは成体やワカモノよりも長時間刺激を注視した。オスの顔を提示した場合もメスの顔を提示した場合も,赤い顔写真と赤くない顔写真の注視時間に差はなかった。以上より,予測(1)は部分的に支持され,予測(3)は支持されなかった。予測(2)が支持されたのは,年齢が若いほど,他個体の顔を見ることに抵抗が低いためであると考えられる。また,交尾期であっても異性の顔をよく見るわけではないことが示唆された。今後は,非交尾期にも同様の実験を行い,その結果を交尾期と比較する。