霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
餌付けニホンザルの視線感受性
新田 春海萩原 佑紀Nabilla Rizky FITRIANA延原 利和延原 久美小池 敦子貝ヶ石 優横山 ちひろ
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 107

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抄録
視線感受性(他者の視線を検出し,それに反応する能力)は,霊長類における社会的認知の基盤的機能の一つである。これまでヒトや飼育下霊長類における知見は蓄積されてきたが,野生個体群におけるその実態や個体差は十分に解明されていない。本研究では,淡路島モンキーセンターに生息する餌付け野生ニホンザル29頭(成獣メス)を対象に,視線感受性とその個体差,社会的特性との関連について検討した。実験では,サルとヒト実験者が金網越しに正対し,実験者の視線を操作した4条件(正面開眼,正面閉眼,横向開眼,横向閉眼)に対するサルの行動反応を測定した。視線課題中,実験者に対し「見つめる行動(Gazing)」,「顔を向ける行動(Facing)」を主指標とし,不安・ストレス指標として「スクラッチ」「自己毛づくろい」,実験者に対する「威嚇行動」も記録した。その結果,サルの見つめる行動は正面閉眼条件と比べて正面開眼条件で有意に増加し,横向条件で有意に減少した。顔を向ける行動においては,正面閉眼条件と比べて正面開眼条件で増加傾向,横向閉眼条件でのみ有意に減少した。一方,不安指標であるスクラッチや自己毛づくろい,実験者に対する威嚇行動は稀で,視線条件による影響は見られなかった。さらに,年齢,順位,社会ネットワーク指標との関連を調べたところ,社会的中心性が高い個体ほど実験者を見つめる行動が短い傾向が確認された。これにより,サル同士の社会的関係性が,ヒトの視線に対する感受性に影響を及ぼす可能性が示唆された。本研究は,野生下に近い環境で生活するニホンザルがヒトの視線を弁別し,脅威としてではなく,報酬や注目の文脈で受け取る柔軟性を持つことを示しており,視線知覚の進化的・生態学的基盤に関して貴重な知見を提供する。
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