抄録
天敵捕食者のような脅威や危険を及ぼす対象に対して,警戒し適切に反応できる個体は生存上有利である。ヒトを含む霊長類は,ヘビ類を瞬時に見分けられる能力やヘビ類に対して強い嫌悪感・恐怖を抱くといった特性を持っている。このことから,ヒトを含む霊長類の共通祖先の主たる天敵捕食者はヘビ類であったことが示唆され,霊長類はヘビを検出するために脳(とくに視覚システム)を大きくしたという「ヘビ検出理論」が提唱されている。これまで,ヘビに対する忌避に関する研究は多くの霊長類を対象に行われてきた。これらの研究から,ヘビの認識と忌避には霊長類個体の経験と年齢が影響していることがわかってきている。そのため,ヘビ認識についての理解を深めるには,ヘビに遭遇する機会が少ない飼育下や行動範囲が小さい餌付け集団の個体に加え,ヘビに遭遇する機会の多い野生下の個体がヘビに対してどのような反応を示すのかを知ることは重要であるだろう。そこで今回我々は,ニホンザルの野生集団の個体を対象にヘビの模型に対する忌避反応の調査を行った。事前調査で判明した調査地内のニホンザルの移動ルート上にヘビの模型を設置した。その後,調査地に群れが移動してきた際にルート上のヘビ模型に対する反応をセンサーカメラで記録し,詳細に分析した。調査期間の中に,ルート上にヘビ模型が存在する期間とヘビ模型が存在しない期間を二回繰り返して,ニホンザル個体のルート選択の変化を記録した。また,ニホンザル個体がヘビの模型に目を向け立ち止まった後,その個体がヘビの模型に対してどのような反応を示すのかを観察し,雌雄およびコドモ間で行動を比較した。その結果,ヘビの模型設置直後はヘビが存在するルートを避けるが時間とともにその行動傾向が変化すること,雌雄で忌避行動に違いがあること,コドモの忌避反応が親世代に比べて弱いことが明らかとなった。これら結果について,考察を行う。