霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
会議情報

口頭発表
ヒト・チンパンジー・オランウータンの短趾屈筋における比較解剖学的研究
櫻屋 透真江村 健児荒川 高光平崎 鋭矢薗村 貴弘
著者情報
会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 66

詳細
抄録
霊長類の足趾の屈曲は,各種のロコモーションに適応し,異なる動作に機能する。足趾を屈曲する短趾屈筋はヒト科内において,起始する部位や停止する足趾に種間差が報告されており,足趾機能の種間差との関連が示唆される。しかし,ヒト科における短趾屈筋の系統発生を検討するために必要な,詳細な形態学的情報が未解明である。そこで本研究では,ヒト8側,チンパンジー2側,オランウータン2側を対象に,詳細に短趾屈筋の形態を比較した。ヒト4/8側で短趾屈筋は第5趾への停止腱が欠如し,うち3側で長趾屈筋腱から起始する筋腹がみられた。7/8側は内側足底神経支配で,残り1側は内側足底神経に加えて外側足底神経が第4趾への筋腹に進入する二重支配であった。チンパンジーでは,全例で踵骨隆起と足底腱膜から起始する筋腹が第2,3趾に停止した。また脛側趾屈筋(長趾屈筋)腱から起始する筋腹が第4,5趾に停止し,他種と比較して発達していた。チンパンジーでの短趾屈筋相当の筋腹は全て内側足底神経支配であった。オランウータン1/2側では,踵骨隆起から2つの筋腹が起始し,それぞれ第2趾と第3趾に停止した。第2趾停止筋腹は内側足底神経支配であり,第3趾停止筋腹は内側・外側足底神経の二重支配であった。残り1側では,踵骨から起始し第2趾から第4趾に停止する筋腹と,脛側趾屈筋腱から起始し第5趾に停止する筋腹がみられた。前者は内側足底神経,後者は外側足底神経に支配された。本研究により,ヒト・チンパンジー・オランウータンの短趾屈筋は,第4趾と第5趾へ停止する筋腹の起始と,外側足底神経に支配される筋腹部分の有無に個体差・種間差があることが明らかになった。ヒトの短趾屈筋が他種よりも内側優位な構造となったことは,ヒト足部の運動軸が他種より内側の第2趾へ移行していることに関連している可能性が示唆された。
著者関連情報

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
前の記事 次の記事
feedback
Top