霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
野生テングザルの群れ構造・人為的攪乱と腸内寄生虫感染の関係
松田 一希Muhammad Nur FITRI-SUHAIMILiesbeth FRIASPrimus LAMBUTJoseph TANGAHHenry BERNARDVijay KUMAR
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 85

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抄録
群れを形成して生活する霊長類においては、社会性が寄生虫の伝播に与える影響が広く認識されている。しかし、群れのタイプや大きさ、さらには生息地の人為的攪乱が寄生虫感染にどのように影響するかについては、依然として十分に解明されていない種も多い。 本研究では、マレーシア・サバ州キナバタンガン川下流域に生息するテングザル(Nasalis larvatus)を対象に、腸内寄生虫への感染率と、群れの大きさおよび生息地の人為的攪乱の度合いとの関係を明らかにすることを目的とした。2015年6月から2016年4月にかけて、複数の群れから160個体分の糞サンプルを収集し、糞中に含まれる寄生虫卵数を分析した。その結果、Trichuris sp.Strongyloides fuelleborni、およびOesophagostomum aculeatumの少なくとも3種の寄生虫が確認され、全体の感染率は80.62%であった。 群れのタイプ(単雄複雌群または全雄群)は感染量に有意な影響を及ぼさなかったが、群れの大きさはTrichuris sp.の感染量と正の相関を、S. fuelleborniおよびO. aculeatumの感染量とは負の相関を示した。また、人為的攪乱の影響が大きい下流域ではTrichuris sp.の感染傾向が高く、逆に攪乱の影響が少ない上流域ではO. aculeatumの感染率が高い傾向が見られた。 これらの結果は、霊長類における寄生虫感染が、群れの規模や生息環境における人為的撹乱の程度と密接に関連している可能性を示唆するものである。
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