平和研究
Online ISSN : 2436-1054
自由投稿論文(研究論文)
1 広島・長崎平和宣言と首相挨拶にみる非核規範——計量テキスト分析を軸に
梅原 季哉
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2023 年 60 巻 p. 73-97

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抄録

本論文では広島・長崎の「原爆の日」に開かれる式典で毎年、両市長が読み上げる「平和宣言」と、同じ式典の場に列席する歴代首相が発出する挨拶文(首相挨拶)について、計量テキスト分析の手法を用いて、核兵器に対する何らかの忌避感に根ざした規範群(非核規範)との関係性がどのように異なるかを分析した。具体的には、学術用テキストマイニングのフリーソフトKH Coderを使い、用語や表現のパターンを論理演算式で記述し指定した「コーディングルール」に照らして、核兵器不使用規範や核不拡散規範といった異なる規範の存在をコード化した形で検出した。そうした各コード群の出現傾向について、当該言説が平和宣言であるか首相挨拶かどうかの別などを外部変数とするχ2検定を施した結果、核兵器不使用規範の受容を示唆する核使用への否定的な文脈での言及と、核兵器禁止を提唱する言説という2点については、冷戦後に関してみると首相挨拶よりも平和宣言の方に強い有意差をもって表出することが確認できた。また冷戦後の平和宣言だけを比較すると、広島と長崎という被爆都市間での差や、各市長の政治的属性による違いに関わらず、非核規範への言及傾向にはほとんど有意差が認められなかった。同時期の首相挨拶についても、自民党政権の首相か非自民党の首相かによって非核規範への言及傾向には統計的な有意差が認められず、極めて均質性の高い傾向がうかがえた。

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