2024 年 61 巻 p. 81-105
本稿の目的は、2011年以降のリビア内戦ならびに関係諸国による対リビア武力行使が長期化した要因を、武力行使諸国が依拠する国際法的根拠の変化と多重化という観点から考察することにある。リビア内戦が長期化した要因について、先行研究は国内外それぞれの問題を指摘してきたが、とくに国際的要因については、大国が軍事力を十分に割いて対応してこなかった問題を指摘する立場と、大国含む関係諸国が内戦の各勢力に武器や傭兵を提供し続けている問題を指摘する立場とに分かれてきた。ところが問題は、仮に上記の先行研究が展望するように大国が自国の軍事力の本格的な投入または軍事的支援の完全停止のいずれを決断するとしても、その決断と矛盾する行動をとらないよう、大国が広く関係諸国を説得することは容易ではないという点に残る。本稿では、必ずしも適法性が明らかでない関係諸国の対リビア武力行使を大国が法的議論をもって説得的に統制し難いのはなぜかについて、大国も含む関係諸国が共通して用いてきた武力行使正当化論である「意思または能力を欠く国家」基準論(“unwilling or unable” criteria / doctrine / formula / standard / test / theory)(以下、UoU論)の特徴に着目して考察する。関係諸国がUoU論を用いて対リビア武力行使の国際法的根拠を変化させ多重化させてきた問題があることを指摘したうえで、なぜこの変化と多重化が対リビア武力行使の長期化の背景として注視されるべきかを論じる。