平和研究
Online ISSN : 2436-1054
61 巻
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
依頼論文
  • 熊本 博之
    2024 年 61 巻 p. 1-22
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

    「1980年代の沖縄-平和と自立、内発的発展の展望」をテーマとして1979年に沖縄で開催された日本平和学会研究大会において、沖縄の報告者たちは、沖縄の民衆への視点が欠落した、沖縄不在の議論を行う本土側のオピニオン・リーダーたちを痛烈に批判した。平和学会はこの批判を受け止め、沖縄ローカルの視点を尊重した議論を行うことで、「自立」概念の深化を成し遂げた。にもかかわらず沖縄の政治的現実が変わっていないのは、自立と平和が無条件に結びつけられてしまっているからだ。そこで本稿では、沖縄に「平和」を実現するためには、どのような「自立」が求められるのか考察を進めた。

    まず沖縄が「決定権限なき決定者」であることを、普天間基地移設問題の経緯を振り返ることで明らかにし、そのことが沖縄県民の間に一定の「あきらめ」を生んでいることを、県民意識調査の結果から示した。しかも日本社会の多数派が、沖縄を「決定権限なき決定者」にさせてきた日本政府の姿勢を容認しており、沖縄と本土の溝が広がっていること、そしてこれらの背景に新自由主義的価値観の蔓延と、その結果としての民主主義の機能不全があることを示した。

    この状況を打開するためには、沖縄の声を政治に反映させるための体制をつくりあげなければならず、そのためには新自由主義を押し進めてきた企業家や官僚、政治家などのテクノクラートたちに抗い続けることが必要である。それは日本社会の、そしてオピニオン・リーダーたちの集まる日本平和学会の責務である。

  • 石原 真衣
    2024 年 61 巻 p. 23-51
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、平和研究と先住民研究の相互目的および意義を確認するために書かれる。そのために、平和研究のルーツを確認し、先住民研究の一端を紹介し、その上で双方にとっていかに建設的な共通の課題を発見できるかを探りたい。さらに読者の一人ひとりが平和研究者としてあるいは日本に居住する市民として、日本の先住民問題において逃れ難く当事者性を有していることを共に確認することを本稿は志向している。

    日本における先住民は、多重に不可視化されてきた。本稿では、平和研究の源流のひとつである北海道帝国大学や東京帝国大学における殖民学および植民政策論が先住民の視点から照らし出すと影の側面があることを確認する。先住民を不可視化する他方の構造的暴力は、日本におけるレイシズムや植民地主義/殖民主義に関する認識の不在とコスメティックな文化によってのみアイヌ民族の課題を把握しようとする力学である。またカナダなどの先住民政策および研究の先進地域における脱植民地化/脱殖民化の流れと日本におけるそれが、いかに異なるかについて、先住民研究者による論考を辿る。

    戦争や核、紛争といった視点からは死角になる「平和問題」がアイヌ民族を取り巻く先住民問題および植民地主義/殖民主義の問題であった。学会設立50周年という節目を迎え、今後の平和学会における意義について先住民研究の視点から述べたい。

  • 木村 真希子
    2024 年 61 巻 p. 52-80
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、国際社会学の分野において平和や暴力がどのように扱われてきたのかを論じる。国際社会学は1980年代に提唱されてきた比較的新しい学問であり、グローバル化の進む中で国民国家が相対化し、国家や国家を単位とする既存の学問でとらえきれない現象を対象としてきた学問である。本稿は国際社会学の中で紛争や暴力を扱った代表的な著作として小倉充夫・舩田クラーセンさやかによる『解放と暴力――植民地支配とアフリカの現在』(2018年、東京大学出版会)と筆者自身の二著作(The Nellie Massacre of 1983: Agency of Rioters, 2013年, Sage;『終わりなき暴力とエスニック紛争――インド北東部の国内避難民』慶應義塾大学出版会、2021年)を取り上げ、その傾向を分析した。非国家主体の台頭を一つのきっかけとして登場した国際社会学の中では、植民地統治下の人々、小農、国内避難民など多様な主体を対象とし、その人々にとって平和とは何か、解放とは何かという問いが中心的となってきたことを明らかにした。こうした国際社会学と平和研究が交差する地点の研究は、竹中千春が過去に『平和研究』で論じた「平和の主体」(「平和の主体論――サバルタンとジェンダーの視点から」『平和研究』第42号)を豊かにする試みであり、平和研究の新たな地平をひらく可能性があるものである。

投稿論文(自由論題)
  • 志村 真弓
    2024 年 61 巻 p. 81-105
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、2011年以降のリビア内戦ならびに関係諸国による対リビア武力行使が長期化した要因を、武力行使諸国が依拠する国際法的根拠の変化と多重化という観点から考察することにある。リビア内戦が長期化した要因について、先行研究は国内外それぞれの問題を指摘してきたが、とくに国際的要因については、大国が軍事力を十分に割いて対応してこなかった問題を指摘する立場と、大国含む関係諸国が内戦の各勢力に武器や傭兵を提供し続けている問題を指摘する立場とに分かれてきた。ところが問題は、仮に上記の先行研究が展望するように大国が自国の軍事力の本格的な投入または軍事的支援の完全停止のいずれを決断するとしても、その決断と矛盾する行動をとらないよう、大国が広く関係諸国を説得することは容易ではないという点に残る。本稿では、必ずしも適法性が明らかでない関係諸国の対リビア武力行使を大国が法的議論をもって説得的に統制し難いのはなぜかについて、大国も含む関係諸国が共通して用いてきた武力行使正当化論である「意思または能力を欠く国家」基準論(“unwilling or unable” criteria / doctrine / formula / standard / test / theory)(以下、UoU論)の特徴に着目して考察する。関係諸国がUoU論を用いて対リビア武力行使の国際法的根拠を変化させ多重化させてきた問題があることを指摘したうえで、なぜこの変化と多重化が対リビア武力行使の長期化の背景として注視されるべきかを論じる。

  • 中束 友幸
    2024 年 61 巻 p. 106-130
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、国際的な紛争の解決において、中立な調停者とバイアスのある調停者のどちらが効果的かという問いに取り組み、調停者の中立-バイアス論争の克服の一助になることである。先行研究の多くは、バーゲニング問題 (情報の不確実性の問題とコミットメント問題) に焦点をおき、バイアスのある調停者の有効性を支持している。しかし依然として、中立-バイアス論争は続いている。それはなぜであろうか。

    第一に、先行研究は様々なバイアスをひとまとめにして分析しているという問題がある。第二に、特に計量分析や事例分析など、観察データを用いた先行研究は、交絡要因や選択バイアスなど、内生性の問題を抱えている。そこで本稿は、理論的に重要と考えられる軍事的関係性と経済的関係性におけるバイアスに注目する。そして分析手法としては、国際調停研究においては比較的新しい手法であるが、因果関係の特定において優れているとされるサーベイ実験手法を用いる。

    実験結果は、経済的関係性バイアスのある調停者は中立な調停者よりも効果的であることを示した。一方で、軍事的関係性バイアスのある調停者は、情報の不確実性の問題下では、中立な調停者よりも効果的であることを示した。本稿の主な貢献は以下の二点である。一点目は、中立-バイアス論争を克服するために、調停者の特定の役割に関して、細かいバイアスのニュアンスを区別することの重要性を提示した。二点目は、実験データを用いる分析手法は、内生性の問題に対処する上で有効な手法であることを示した。

  • 中山 均
    2024 年 61 巻 p. 131-145
    発行日: 2024/01/31
    公開日: 2024/02/15
    ジャーナル フリー

    本学会の学会誌『平和研究』第55号(2021年3月)の「巻頭言」は、「われわれ人類が平和のうちに生きるための現今の課題」として、いくつかの課題とともに気候変動問題を取り上げている。

    そこでは、「人為起源CO2 地球温暖化論一辺倒とも言える状況は、気象学における『学問の自由』の喪失に等しい」と断じ、「人為起源CO2による地球温暖化」について「異論が尽きず」「科学的客観性が確立されていない」として、「科学的検証が必要」と論じている。科学的立場に立った公正・合理的な議論が必要であることは当然であるが、今回の巻頭言で持ち出されている「異論」の多くは、科学的論争の中で決着がついたもの、あるいは根拠が不明なものや確認できないものがほとんどである。

    気候変動問題は、国内外の格差貧困問題や紛争・飢餓など社会問題とも密接な関連を持ち、「気候正義」という概念も提起されるようになっている。しかし、そうした問題に最も敏感かつ深くアプローチすべき役割を担うべき当学会の学会誌で掲載された今回の巻頭言のような主張は、国際社会が共有する気候変動への危機感と温室効果ガスの大幅な排出削減の必要性を否定し、途上国や島嶼国、未来世代への責任を放棄するものだと言わざるを得ない。

    本論考では、そうした問題意識に基づき、今回の巻頭言における気候変動問題に関する認識や主張について、具体的な根拠を示しながら反論し、問題点を明らかにした。

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