2024 年 61 巻 p. 106-130
本稿の目的は、国際的な紛争の解決において、中立な調停者とバイアスのある調停者のどちらが効果的かという問いに取り組み、調停者の中立-バイアス論争の克服の一助になることである。先行研究の多くは、バーゲニング問題 (情報の不確実性の問題とコミットメント問題) に焦点をおき、バイアスのある調停者の有効性を支持している。しかし依然として、中立-バイアス論争は続いている。それはなぜであろうか。
第一に、先行研究は様々なバイアスをひとまとめにして分析しているという問題がある。第二に、特に計量分析や事例分析など、観察データを用いた先行研究は、交絡要因や選択バイアスなど、内生性の問題を抱えている。そこで本稿は、理論的に重要と考えられる軍事的関係性と経済的関係性におけるバイアスに注目する。そして分析手法としては、国際調停研究においては比較的新しい手法であるが、因果関係の特定において優れているとされるサーベイ実験手法を用いる。
実験結果は、経済的関係性バイアスのある調停者は中立な調停者よりも効果的であることを示した。一方で、軍事的関係性バイアスのある調停者は、情報の不確実性の問題下では、中立な調停者よりも効果的であることを示した。本稿の主な貢献は以下の二点である。一点目は、中立-バイアス論争を克服するために、調停者の特定の役割に関して、細かいバイアスのニュアンスを区別することの重要性を提示した。二点目は、実験データを用いる分析手法は、内生性の問題に対処する上で有効な手法であることを示した。