2024 年 61 巻 p. 131-145
本学会の学会誌『平和研究』第55号(2021年3月)の「巻頭言」は、「われわれ人類が平和のうちに生きるための現今の課題」として、いくつかの課題とともに気候変動問題を取り上げている。
そこでは、「人為起源CO2 地球温暖化論一辺倒とも言える状況は、気象学における『学問の自由』の喪失に等しい」と断じ、「人為起源CO2による地球温暖化」について「異論が尽きず」「科学的客観性が確立されていない」として、「科学的検証が必要」と論じている。科学的立場に立った公正・合理的な議論が必要であることは当然であるが、今回の巻頭言で持ち出されている「異論」の多くは、科学的論争の中で決着がついたもの、あるいは根拠が不明なものや確認できないものがほとんどである。
気候変動問題は、国内外の格差貧困問題や紛争・飢餓など社会問題とも密接な関連を持ち、「気候正義」という概念も提起されるようになっている。しかし、そうした問題に最も敏感かつ深くアプローチすべき役割を担うべき当学会の学会誌で掲載された今回の巻頭言のような主張は、国際社会が共有する気候変動への危機感と温室効果ガスの大幅な排出削減の必要性を否定し、途上国や島嶼国、未来世代への責任を放棄するものだと言わざるを得ない。
本論考では、そうした問題意識に基づき、今回の巻頭言における気候変動問題に関する認識や主張について、具体的な根拠を示しながら反論し、問題点を明らかにした。