理学療法 - 臨床・研究・教育
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症例検討
呼吸中枢出力の指標である気道閉塞圧を経時的に測定した上腹部開腹術患者の一考察
安達 純子解良 武士飛田 英樹桑垣 佳苗片桐 健一久保 寿朗吉野 恭正
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2012 年 19 巻 1 号 p. 58-62

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抄録
上腹部開腹手術後の評価として肺活量や1秒率などのスパイロメトリー,胸腹部の運動性についての報告はこれまで数多くあるが,呼吸中枢出力の指標である気道閉塞圧(P0.1)がその評価に用いられたことはない。今回,我々はこのP0.1やその他の換気パラメーターを上腹部手術前から経時的に観察することを試みた。症例は,症例A:60代後半と症例B:80代前半の胃癌による上腹部開腹術を受けた女性2名であり,いずれも対象者からインフォームド・コンセントを得た。いずれも術前より理学療法介入を行い,術後硬膜外麻酔と座薬による疼痛管理が行われた。術前後にP0.1と肺活量を気道閉塞装置と差圧トランスデューサー,流量計を組み合わせた器具で測定した。術後は上記に加えvisual analog scale(VAS)を用いて安静時および深呼吸時の疼痛を評価した。経過は症例A,Bともに術前と比べ術直後ではVASの上昇,P0.1と呼吸数の増加,肺活量の著しい減少を認めた。これらはVASの減少と共に徐々に術前値へと改善を認めた。しかし,最終評価時ではVASの減少は認めたが,P0.1と呼吸数,肺活量は術前値まで改善しなかった。症例Aについては,食事形態変更後に腹部膨満感の訴えを認めていた。上腹部開腹術後は全身麻酔の影響や疼痛により肺活量の減少をきたすことが多いが,これは手術侵襲に伴う神経反射による横隔神経の活動抑制が関わっていると推察されている。しかしながら術後P0.1が増加したことから,横隔神経の活動抑制と呼吸中枢出力の増大の関係についてはさらに精査が必要である。
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© 2012 社団法人 埼玉県理学療法士会
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