日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
腎症 理学療法のポイント
音部 雄平
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 11

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抄録

近年,糖尿病を合併する腎症患者への理学療法実施の機会およびその必要性は大幅に増加していると言える.これは高齢化に伴い重複障害としての糖尿病腎症を合併している患者が増えていることのみならず,糖尿病腎症に対する運動療法の考え方が大きく変化してきていることに起因している.以前は糖尿病腎症の病気が進行した患者(糖尿病腎症第3 期及び第4 期)では,安静や運動制限が推奨されていた.これは運動によって腎臓に流入する血流量が一時的に低下することで,腎機能の悪化をきたすと信じられていたためである.しかし,近年の研究で運動実施に伴う腎機能の悪化はきたさず,むしろ腎機能低下の速度を緩やかにするという報告もなされている.このような背景から,『糖尿病治療ガイド』においても2016 年度から「運動制限」の文字は削除されており,また限定的ではあるが糖尿病腎症患者に対する運動指導に対し診療報酬を算定できるようになっている.実際に,我々は腎臓病患者を対象とした運動療法介入の無作為化比較試験を実施しており,腎機能の悪化をはじめとする有害事象をきたすことなく,筋力やバランス能力,歩行能力,さらには認知機能の改善などが得られることを報告している. 糖尿病腎症患者に対する運動療法の注意点及び処方内容として,まず合併症およびそのリスクの把握が重要となる.糖尿病腎症患者では,糖尿病単独もしくは腎臓病単独の患者に比べ心疾患病死亡のリスクは大幅に増加することが知られている.そのため,運動開始前のメディカルチェック(心疾患の有無,糖尿病・腎臓病のコントロール状態など)および運動時所見の確認が必須であり,患者個々の状態に合わせて運動処方を行う必要がある.運動療法の内容については有酸素運動と筋力トレーニングの併用が基本となり,運動記録手帳や歩数計を用いることで,患者の日々の活動を定量化し,運動療法の継続を促すことが望ましいと考えている. 本講座においては,糖尿病腎症の評価,糖尿病腎症患者への運動療法の考え方,運動療法の効果,注意点,運動療法の実際について概説する.

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© 2022 日本糖尿病理学療法学会
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