日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
神経障害 理学療法のポイント
鈴木 康裕
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 12

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抄録

糖尿病によって発症する神経障害(糖尿病神経障害:Diabetic polyneuropathy ,以下DPN)は最も頻度の高い慢性合併症であり,糖尿病患者の約半数がDPN を有している.糖尿病末梢神経障害および合併する閉塞性動脈硬化症は,下肢切断に至る原疾患の第1 位であり,糖尿病性足病変による下肢切断後の5 年生存率は約 40~60%と低く,患者の生活の質と生命予後を大きく損なう疾患である.そのため,DPNを早期に発見しフットケ アなどを施すことで重症化を予防することが重要である.しかしながらDPN の半数以上は無自覚であることから,医師による通常診療だけでは発見が難しい.我々理学療法士は,糖尿病理学療法の知識と技術を駆使し, DPN を早期発見する使命を帯びていることを肝に銘じるべきである.本講義では,若手理学療法士の臨床能力 を高めるべく,次のテーマに沿って話を進めることにする.「なぜ,臨床的に重視すべきなのか」DPN の存在を把握することにより,網膜症や腎症の重症度を予測できる,あるいは将来の足病変や運動器不安定症の発生を予見し早期に介入できる,などの臨床的メリットが挙げられるが,今回は糖尿病患者の転倒との関連について取り上げる.DPN に罹患することにより易転倒性となることが報告されているが,どのようなメカニズムによるものなのか? DPN により,下肢筋力やバランス能力の低下などの運動器障害を呈することは既報で明らかにされて いる.つまり糖尿病患者の転倒の原因は,DPN の罹患そのものによる感覚障害なのか,あるいは付随した運動器障害によるものなのか,改めて再考する.「どのように,鑑別すべきか」現在,DPN に特異的な症状や検査は存在せず,国際的コンセンサスの得られた診断基準は確立されていないため,診断のゴールデンスタンダードは存在しない.そのため神経症状と検査結果から総合的に鑑別する必要がある.本邦の臨床でよく用いられている2 つの基準を挙げ,検査値の正常範囲などについて改めて確認する.さらに近年,DPN を小繊維障害型(有髄Aδ線維,無髄C 線維),大線維障害型(有髄Aβ線維),混合型線維障害型,非小大線維障害型に4 分類できる考え方が示されている.この新しい概念についても紹介する.「どのように,検査すべきか」DPN の検査として臨床で多用されている触圧覚検査,振動覚検査,アキレス腱反射検査,神経伝導機能検査を取り上げる.これらの検査場面を共有し,神経生理や手技について振り返ることにする.

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© 2022 日本糖尿病理学療法学会
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