日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
網膜症 理学療法のポイント
河江 敏広
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 13

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抄録

近年,糖尿病性神経障害および糖尿病腎症は理学療法に対する適応疾患としての認識が高まりつつあるが,糖尿病網膜症に対する理学療法のエビデンスは少なく,臨床においても実際の指導に難渋することが多い.そこで本講義では糖尿病網膜症に対する診療ガイドラインの内容を踏まえて,網膜症を有する患者への具体的な理学療法について解説する. 糖尿病網膜症は細小血管症によって生じる網膜血管の障害であり,進行することで視力障害を来たしてQOL を著しく低下させる.International diabetes federation によれば,糖尿病患者の3 人に一人が糖尿病網膜 症を有しており,10 人に一人が網膜症により視力障害を来たしている.そのため,理学療法士が糖尿病患者を担当した場合は,必ず網膜症の有無について確認し,その病期に応じた理学療法を実施することがリスク管理上においても重要な事柄である. わが国においては糖尿病網膜症の病期分類が用いられており,「単純網膜症」,「増殖前網膜症」,「増殖網膜症」の3 段階に分類されており,運動療法は各病期応じた実施内容が提示されている.この病期分類においては,増殖前網膜症以上の病期で運動の制限を考慮すべき記載となっていため,理学療法士は増殖前網膜症以上の病期における運動指導では網膜症を重症化させない運動を選択する必要がある.また,糖尿病診療ガイドライン2019 においては,新生血管は脆弱で血圧の急激な増加で出血のリスクが高まると考えられており,増殖前網膜症以上の症例では,ジャンプ,身体に衝撃の加わる活動,頭位を下げるような活動,呼吸を止めていきむような活動(Valsalva 手技)を控えるとされている. 以上のことから,網膜症に対する安全な運動療法としては血圧を上昇させない方法が望まれる.そこで,理学療法士が可能な網膜症患者に対する療養指導を踏まえて,我々が臨床において実践している網膜症患者に対する安全な運動指導方法について紹介する.

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© 2022 日本糖尿病理学療法学会
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