日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
糖尿病合併症の重症化予防を目指して 10 年後のために今できること
平木 幸治
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 2

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抄録

今から10 年前までは透析治療を導入されていない保存期慢性腎臓病(CKD)患者における運動療法は,腎機能悪化が懸念され積極的には勧められていなかった.むしろ,安静や運動制限が腎疾患の治療の一環となっていた.透析導入の原因疾患でもっとも多い糖尿病腎症も同様で,糖尿病腎症生活指導基準には病期が進行すると運動制限するように明記されていた.しかし,このような腎疾患に対する運動制限に臨床的な根拠はなかった.そのため,2009 年に日本腎臓学会から「エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン」が発行され,CKD 患者の腎機能低下抑制および心血管疾患予防目的に中等度までの運動療法が推奨されるようになった.この頃からCKD 患者に対する運動療法や身体活動量増加による腎機能改善(腎機能低下抑制)効果を示す論文が散見されるようになってきた.そして,2016 年には糖尿病透析予防指導管理料を算定している施設において糖尿病腎症に運動指導を行った場合に「腎不全期患者指導加算」としての診療報酬請求が認められるようにな った.このように糖尿病腎症や保存期CKD 患者に対する運動療法の考え方はこの10 年間で「運動制限」から「運動の推奨」へと大きく変わってきている. しかしながら,日本糖尿病理学療法学会のアンケート調査により糖尿病腎症患者に関わっている理学療法士は非常に少なく,糖尿病透析予防指導管理料に至っては関わりをもっている理学療法士はほとんどいなかった.このように糖尿病腎症など保存期CKD 患者に対する運動療法や運動指導は臨床において広く実践されているとは到底言えないのが現状である.糖尿病腎症や保存期CKD 患者の運動療法に対する診療報酬の増点や算定要件拡大のためには重症化予防を目指した運動療法の普及・啓発,臨床研究の推進によるエビデンスの構築が必要である. 本講演では,これまで我々が行ってきた保存期CKD 患者の身体・認知機能低下の問題と保存期CKD 患者に対する運動療法の安全性や有効性の検討結果を紹介し,現在までの運動療法の効果と課題について述べる.今回の学術大会をきっかけに,参加者の皆様が糖尿病腎症や保存期CKD 患者に関わるきっかけになれば幸いである.

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