日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
透析期CKD 患者に対する疾病管理としての理学療法
松永 篤彦
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 3

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抄録

平木幸治大会長が大会のテーマに掲げられたように,糖尿病に対する治療目標はまさに糖尿病の病態の悪化に伴う合併症の予防,合併症の早期発見および早期介入による重症化予防に他ならない.理学療法に関わる診療報酬上の制約から,一般の医療施設等において糖尿病の合併症予防に直接介入している理学療法士は少ないと思われるが,合併症としての脳・心血管疾患等への介入を展開している理学療法士は極めて多いものと思われる.それゆえ,糖尿病の合併症とその重症化予防のための理学療法の効果を科学的に検証し,同職種の理学療法士へはもとより,医療チーム内の他職種に対して明確な治療指針を示すことは極めて重要で喫緊の課題である. 平木大会長による基調講演では,糖尿病を原疾患として合併する慢性腎臓病(CKD)のうち,特に透析治療導入に至っていない保存期CKD 患者に対する重症化予防が示されるが,本教育講演では既に重症化し透析導入に至った透析期CKD 患者に対する理学療法の役割を提示させていただくことにした. わが国の透析患者に対する疫学調査(2019 年末)からその概略を捉えると,70 歳以上の構成比は男性51.6%,女性59.0%と高齢化が進んでいる一方で,他国と比較すると透析導入後の生命予後は最も良く,日常 生活活動(ADL)レベルも保たれている.ただし,筆者らの研究調査では,外来通院している血液透析患者のフレイルの有症率は約2 割で,プレフレイルを含めると7 割であった.つまり,このまま介入せずにいるとあっという間にADL レベルは低下し,心血管イベント等の発生やひいては死亡に至ってしまう状態ある患者は7 割にも及んでいる.保存期CKD 患者に対するCKD の重症化予防の指針とは異なり,透析患者を取り巻く疾病管理の一つとして,併存する疾患や機能障害等に対する介入が必要である.これらの介入の重要性を裏付けるデータとして,筆者らは,糖尿病を有していること自体が死亡リスクを高める強力な因子であるものの,糖尿病の有無に関係なく,身体機能や身体活動量が高く保たれている透析患者はそれ以外と比べてイベント発生率や死亡率が有意に低いことを把握している. 本講演では,筆者らの20 年にも及ぶ長期データをもとに,透析期CKD 患者に対する疾病管理としての理学療法の効果を示したい.平木大会長が掲げる「10 年後のために今できること」の一助に繋がれば幸いである.

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