日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
認知症・フレイルからみた糖尿病合併症の重症化予防の重要性
牧迫 飛雄馬
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 6

詳細
抄録

糖尿病,高血圧,肥満,喫煙などの生活習慣に関わる要因は,認知症の重大な危険因子とされている.とくに,糖尿病は認知症および認知機能障害の発生リスクを増大させるだけでなく,認知機能が低下している中高齢者では将来の糖尿病発症リスクを増大させることが報告されており,双方からの予防対策が重要である.さらに,糖尿病に至らずとも,HbA1c が5.7~6.4%程度の前糖尿病に該当する者でも認知症の発症リスクが高く,さらには脳萎縮の進行が懸念されている. また,糖尿病を合併するフレイル高齢者では,要介護の発生リスクが増大することが報告されており,糖尿病の診断基準に該当しなくとも,前糖尿病の段階からフレイルや身体機能の低下を惹起するリスクが高いことが示唆されている.このように,糖尿病の診断に至らずとも,その前段階である前糖尿病においても,認知症およびフレイルの発生リスクは高く,より早期からの血糖コントロールおよび重症化の予防が重要であろう. 認知症の発症者では,発症の10~12 年程前から身体活動量は低下してくることが指摘されており,継続した身体活動の促進に取り組むことが望ましい.とくに,65 歳以上の高齢者では,座位時間を身体活動(強度は問わない)に置き換えることや,1 週間で150~300 分以上の中強度の有酸素運動,もしくは75~150 分の高強度の有酸素運動に取り組むことが推奨されている.有酸素運動を中心とした身体活動の向上によって,認知症の発症の予防や遅延に効果が期待されている.認知機能の維持・改善に対するより効果的な運動療法としては,運動による身体活動の促進のみではなく,知的な刺激が伴う活動を付加することが推奨される.とりわけ,認知機能の低下が疑われる状態においては,運動のみによる介入では認知機能の改善には限界があると言わざるを得ず,知的な刺激の伴う活動を加えることで認知機能が維持・改善することが期待されている. フレイルに対しては,筋力トレーニングを中心として,有酸素運動,柔軟運動,バランス運動を含めた多面的な運動が推奨されている.血糖コントロールの改善を目指すうえでは,具体的な運動方法の提示とともに,いかに継続できるかの支援も重要であろう.

著者関連情報
© 2022 日本糖尿病理学療法学会
前の記事 次の記事
feedback
Top