日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
糖尿病の重症化予防-糖尿病診療における現状と課題-
吉岡 成人
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 5

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抄録

糖尿病はインスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝症候群であり,慢性に続く高血糖や代謝異常は細小血管障害である網膜症,腎症,神経障害をひきおこし,全身の動脈硬化症を進展させる.日本における保険診療・特定健診から得られたビックデータ(National database of health insurance claims and specific health checkups of Japan :NDB)の解析によれば,2016 年に糖尿病の薬物治療を受けている患者数は 約155 万人と推計されており,2006 年よりも35 万人ほど減少している.合併症についてみると,2016 年には40 歳以上の糖尿病患者における透析患者の割合は2006 年と比べて1.16%から0.88%と減少し,網膜症の治療者は0.08%から0.53%と増加している.細小血管障害に対する重症化予防への試みが進捗しているようにもうかがえるが,一方で,糖尿病を治療中の患者における40~64 歳における心筋梗塞,脳梗塞のリスク比はそれぞれ非糖尿病者に比べ13.54 倍,11.76 倍であり,壮年期における動脈硬化性疾患のリスクが高いことが示されている.また,日本糖尿病学会における診療録直結型全国糖尿病データベース事業(Japan diabetes comprehensive database project based on an advanced electronic medical record system:J-DREAMS)によれば,糖尿病患者にお ける合併症・併発症の頻度は高く,糖尿病性腎臓病35,4%,網膜症23.1%,神経障害19.2%,心血管疾患 22.1%,脳血管疾患8.8%と報告されている.2 型糖尿病の高齢化が進行している現状にあっては,併発症として のがん,認知症,サルコペニア,フレイルなどへの対応も喫緊の課題である.糖尿病の診療現場において,医療従事者の躊躇い(イナーシャ)や患者サイドのディシジョンメイキングにおけるバイアスは,治療のステップアップをさまたげる要因となる.しかし,患者一人ひとりのQOL を高く維持し,充実した毎日を送ることができるようにするという目標を達成するためには,診療の現場における「disease」という視点からの重症化予防とともに,「illness」という視点からの患者や家族に対する社会的,心理的なサポートも必要となる.

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