日本糖尿病理学療法学雑誌
Online ISSN : 2436-6544
抄録
心大血管疾患,脳血管疾患からみた糖尿病合併症の重症化予防
河野 裕治
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2 巻 Supplement 号 p. 7

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抄録

本邦の死因別死亡統計では,死亡率の1 位は悪性腫瘍であるが,心血管疾患(2 位)や脳血管疾患(4 位)などのいわゆる「血管疾患」という視点でまとめると,悪性腫瘍よりも死亡率が高くなる.脳血管疾患の発症率に関しては,高血圧治療の進歩により脳出血の発症率は減少したが,人口動態の高齢化や食習慣の欧米化による肥満,脂質異常症,糖尿病などの代謝性疾患の増加により,脳梗塞の発症率は増加している.これは心筋梗塞にも同様の傾向を認める.今後も高齢化が進む本邦では,脳梗塞や心筋梗塞の発症数がさらに増加すると予想されている.また脳梗塞と心筋梗塞は再発率が高いことも共通しており,再発を繰り返すことで身体機能障害や心機能障害は重度化し,要介護状態や心不全が進行していく. 脳梗塞と心筋梗塞の病態背景には動脈硬化があり,発症後の基本的な治療方針は再発予防になる.再発リスク因子には高血圧,脂質異常症,糖尿病,肥満等の代謝性疾患がガイドラインでは提示されており,各因子の管理目標値も設定されている.この危険因子の中でも糖尿病が注目されており,動脈硬化の進展や高血圧などの代謝性疾患の背景にはインスリン抵抗性が挙げられている.脳血管疾患や心血管疾患発症後の身体不活動や末梢組織の変化からさらにインスリン抵抗性が増悪し,再発のリスクが増大していく.また心疾患に注目すれば,糖尿病は心不全のリスク因子である一方で,心不全も糖尿病発症のリスクを増大させることが報告されており,虚血性心疾患を発症しなくても糖尿病により心不全が進行していく.最新の知見では糖尿病治療薬により心不全の予後が改善することも報告されている.したがって,心大血管疾患や脳血管疾患の重度化予防には糖尿病の管理が重要になり,その対応策としては運動療法が重要であると考えられる. 本セッションでは心大血管疾患や脳血管疾患を糖尿病の合併症と位置付けて,重症化予防としての理学療法管理についてまとめてみたいと思う.

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